BOYS2️⃣

aika

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♤『青春の記憶』(SIDE 八神 流風)

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~~~~登場人物~~~~


♤八神 流風(やがみ るか)22歳 ボーカル

ロックバンドCrossのボーカル。雷の兄。
黒髪テクノカット。同じバンドのギタリスト、慎とは恋人同士で公認の仲。



♤丹羽哲哉(たんば てつや)

流風の高校時代からの親友。雷を可愛がっている。
ツンツンと尖らせた金髪。丸メガネ。チャラチャラした見た目でガラが悪い。
ノリが良くて、冗談ばかり言っているチャラい男。



♤白鳥 慎(しらとり しん) 20歳 ギター

ロックバンドCrossのギタリスト。
艶黒髪。センター分けのストレートボブヘア。美少年。着物が似合いそうな美しい顔立ち、気品のある少年。
亮とは同郷で元恋人同士。
流風を尊敬し、愛している。誰に対しても敬語で話す。


~~~~~~~~~~~



♤『青春の記憶』(SIDE 八神 流風)


高校に入学して初めて彼を見た時、同い年でこれほど自由奔放な生き方をしている奴がいるのかと驚いた。
彼はド派手な金髪をツンツンと上向きに固めたヘアスタイルで、薄い紫色のメガネをかけていて、よくわからない柄のシャツを着て、どこにいてもすぐわかる目立つ男だった。

校則なんてまるで気にしていないし、2時間目から登校してくるのが日常。
かと言って、不良という枠組みにもおさまらない、人当たりの良い男だった。

教師たちも彼の毒気の無さに怒る気力を削がれたのか、お前は本当に仕方ないやつだなぁ、という一言で校則違反もお咎めなしだ。

職員室で教師たちと昼ごはんを食べることもあるくらい、垣根のない人付き合いが彼の持ち味だった。
コミュニケーション能力の高さ。

小さな頃から子役をやっていた俺は、人間関係に自信があった。
人に注目され、人を魅了する。
人を喜ばせ、人の心に入り込む。
幼い頃から身についていた能力。
そんな俺でさえ、彼のコミュニケーション能力の高さには何度も驚かされた。
彼はあっという間に人の懐深くに入り込んでしまう。

人間が好きなのだろう。
彼は底抜けに優しくて、利害には全く興味がない。欲がない。
裏表のなさと、人と自分の間にどんな壁も作らないオープンさ。

高校に入学して初めて彼と会ったその瞬間に、俺は彼が大好きになった。


「流風~、今日もお前ん家行っていいか?」

彼はあっという間に、俺の家族とも仲良くなって、気づいた時には同居していた。

「今更聞かなくて良いって。そんなこと。」

変なところが細かくて、律儀な男だった。

何度思い出してみても、疑問に思う。
この当時の俺たちの関係は普通じゃない。

クラスメイトが自分の家で一緒に家族のように生活しているなんて。
婿養子のような立ち位置で、彼は俺の家族に馴染んでいた。

人をあまり信用しない俺の母親も、哲哉にはすっかり心を許して可愛がっていて、人見知りが激しい弟の雷も彼にはすぐ懐いた。

哲哉はとても明るくて感情もわかりやすい。
いつも周りに人がいる。
人に警戒心を一切抱かないから、人に警戒されない。

殺しても死ななそうな生命力のある男だけれど、俺は彼の存在がとても儚いものに思えてふと不安になることがあった。
ふらりとどこかへ行ってしまうのではないか、という根拠のない不安が突然俺を襲う。
大切で、失いたくない存在だったからだと今ならわかる。


「流風、今夜祭りに行こうぜ。」

「立松町の神社?」

「そうそう。花火大会があるんだってよ。」


夏の風のにおい。

緑のにおい。

若く、未熟な、発展途上の俺たち。

思い出すといつも切ない。
いつも、ひどく眩しい。

夢の中の出来事だったのではないかと思うほど、遠く美化された夏の記憶。

彼と過ごした時間は、俺の青春そのものだった。



「雷も連れて行くか。」

哲哉は俺の弟の雷をとても可愛がっていて、ライブハウスやイベントによく連れて行ってくれた。
ことあるごとに雷を誘うので、俺は兄として嬉しい半面、拗ねたような気持ちになったものだった。
親友を取られたような気がして、寂しい。

「雷は、祭りとか好きじゃないから。」

今思えば笑えるくらい幼い、嫉妬心。



「哲哉く~ん!来てたんだ!八神くんも。」

「お~、お前ら気をつけて帰れよ。」

同じクラスの女子たちにひらひらと手を振る彼の横顔。
彼は女子たちからも人気があって、何人もふられて泣いている子を見てきた。

好みのタイプは?と一度聞いたことがある。
学年で一番美人の女子を、俺の目の前で振った時だった。

「あ~?鈍感で、やきもちやきな奴?」

彼は興味なさそうにそう答えると、ニカッと悪戯な笑顔を見せた。


「ヤベェ、流風。花火、始まるぞ。」

彼は俺の手を握って、河原へと走った。

俺の青春のクライマックス。



この記憶は、現実だったのだろうか?
まるで全てが映画の中のワンシーンみたいに美しい。

このシーンは何度も何度も夢の中で繰り返され、その度に俺の心を淡く瑞々しい世界へと連れて行く。

彼と手を繋いで大きな花火の下を走った、あの日の記憶。


夜、俺たちは狭いシングルベッドで二人、寄り添うようにして眠った。
俺の部屋に居候していた哲哉は、彼用の布団を床に敷いているにもかかわらず、夜中にいつも俺のベッドに潜り込んできた。

「抱き枕がないと眠れないんだよな~。」

「俺は抱き枕なのか。」

「俺専用のな。」

どこまでが冗談で、どこからが本気なのか、まるでわからなかった。

俺は弟に対してやきもちを妬くくらい、哲哉のことが好きだった。
好き、とはっきり自覚していたわけじゃない。

今思えば、恋愛感情だったのだ、と懐かしく想うだけだ。
あの頃の俺は、いつも周りにたくさん人がいる哲哉を独り占めできたら、と叶いもしない願いを胸に秘めていた。



「なぁ、俺がもし流風の世界から居なくなっても、お前だったらまた俺を見つけてくれるよな?」

彼は独特の儚さを表情に纏って、俺にそう言った。

「哲哉と俺、世界に二人きりだったらいいのに。」

俺は言うつもりのないそんなキザなセリフが口から出てしまって、言った瞬間に後悔していた。

哲哉はどう思っただろうと気になって、恥ずかしい。

「なんだ、お前も俺と似たようなことを思ってたんだな。」

哲哉は長くて綺麗な細い指で、俺の前髪を避けて、額にキスをした。

「ロマンチスト。」

彼は揶揄うようにそう言って笑って見せた。



哲哉は音楽の才能があって、どんな楽器も器用に弾きこなす。
ピアノもギターもベースも、ドラムさえも。
マルチな才能があり、あちこちのバンドから助っ人を頼まれていた。

弟の煉にバイオリンを教えてもらい、軽く弾きこなしていたのを見た時は心底驚いた。

夕方涼しくなってくると、俺の部屋の大きな窓の前に座って、彼はクラシックギターを弾いてくれた。
何年過ぎようと、涼しい初夏の夜には俺はあのメロディーを思い出す。

俺たちは親友以上の想いをお互いに胸に秘めていたけれど、その想いが大切すぎて手をつけられないまま、青春時代にピリオドを打った。

彼は宣言通り、俺の世界から姿を消した。




♢♢♢♢♢♢



「あれ?お前、流風かぁ?」

音楽番組の収録でテレビ局の廊下を通っていたら、すれ違った長身の男が振り返って俺を見た。
サングラスを額にずらし、俺の顔を確認したその男は、見覚えのある仕草でニカッと笑う。


丹羽 哲哉。

彼は間違いなく、俺の青春そのものだった。







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