BOYS2️⃣

♢『浮気』（SIDE 南川 梓）

～～～～登場人物～～～～


♢南川　梓（みなみかわ　あずさ）　大学院生　２４歳

男女ともにモテる人たらし。ふわふわと動きのある茶髪、クリっとした大きな目。
可愛い系の顔で、明るく元気な性格。裏表のない、単純明快な性格、喜怒哀楽が激しく、
ドジな一面もあり目が離せない。純粋で人を疑うことを知らない。
素直で可愛いが、遥にだけは素直になれず口喧嘩ばかり。
幼い頃から本が好きな、文系男子。運動神経もよく、アウトドアも好きでアクティブ。
大学院で教授の助手をしながら、文学について学んでいる。


♧宗馬　遙（そうま　はるか）　２４歳

青のインテリ細縁メガネ。黒髪、短髪。切れ長の瞳。賢さが滲み出ている知的なルックス。
クールで、ポーカーフェイスだが、怒り、不機嫌、などの感情はわかりやすく表に出るタイプ。
航空宇宙工学専門。航空エンジニア。空港で飛行機のシステム、設計に関わる仕事をしている。
口が悪く、冷たい印象を与えるタイプ。
バリバリの理系。数字でしか物事を考えられない、人間味が足りない。と幼なじみの梓がいつも悪口を言っている。


♢屋敷　比呂久（やしき　ひろひさ）　文学部教授　　４５歳

有名な大学教授で、何冊も本を出版している。
出版社の女性担当者から言い寄られるほどのイケオジ。
細身の長身。フェロモン漂う大人の男。垂れ目、茶髪で緩やかなウエーブがかかった髪。
研究以外のほとんどのことには興味がない。


～～～～～～～～～～～


♢『浮気』（SIDE 南川 梓）


屋敷教授が俺を裏切るなんて、想像したこともなかった。

久々に教授に会えることが嬉しくて急いで研究室に行ったら、彼は俺の後輩の吉住にフェラされて果てたところだった。


なんというタイミングの悪さ。自分を呪いたい気持ちになる。


吉住が教授のことを尊敬していて好意を寄せているのは、なんとなくわかっていた。
それでも、教授を誘惑するほどの想いだったなんて夢にも思っていなかった。
恋人同士になって幸せで舞い上がっていたのは自分だけだったということがわかって、なんだか急に恥ずかしくなる。

自分のことにばかり目を向けて、周りの人の気持ちを汲み取ろうともしなかった自分が情けなかった。


「南川、待ってくれ。頼む。」


研究室を逃げるように立ち去った俺の後を、教授は追いかけてきてくれた。

浮気されたのに、追いかけてきてくれたことが嬉しいなんて。
男に都合よく扱われる女みたいだな、と自嘲する。


今思えば休み前の教授の態度は少しおかしかった。

助手の俺に仕事を休むようにと指示したのは、吉住と逢引するためだったのか。
本当は大型連休だろうがなんだろうが、俺は教授の側に居たかった。
それでも教授がそういうなら、と相手の気持ちに従ったのは、彼に嫌われたくなかったからだ。
自分の本心を伝えることのできない間柄。理解し合うなんて到底無理だったのだと気付く。


「教授、すみません。俺、全然気付いてなくて。」


「なんで梓が謝るんだ。」


梓。
彼にそう呼ばれると心が揺らぐ。


教授の必死な顔を見て、やっぱり俺のことが好きなんじゃないか、と勝手に期待してしまう自分が悔しい。
本当に好きだったら、俺の後輩とあんなことをするわけがない。

自分は心底馬鹿だ、と思った。


好きになったら相手のことが冷静に見れなくなるのかもしれない。
好きすぎて、彼の言ったことはなんでも信じてしまうし、なんでも嬉しい。





♢♢♢♢♢♢♢



「あの男とは別れろ。」

ハッキリとそう言い切った遥が、かっこいいと思った。
俺が逆の立場だったとしたら、そんなセリフ絶対に言えないと思うから。
相手の人生を左右してしまうような助言を口にできるほど、俺には勇気がない。



それでも覚悟は決まっていた。

自分にとって一番良い選択をする。そうやって生きなきゃ、相手を大切にすることだってできないはずだ。

俺がいいように扱われて傷ついたら、遥だってきっと辛いはずだ。
兄弟みたいな、親友みたいな、ライバルみたいな、俺の幼なじみ。


どんな目にあったって、どんなに傷ついて帰ってきたって、俺の隣にはいつも遥がいてくれる。
そばにいて憎まれ口を叩き合える。
そしていつの間にか俺はいつもの自分に戻っているんだ。


「遥は、好きなやついないのかよ？」



失恋した俺を励まそうと、遥が運転して連れてきてくれた海。
砂浜に座り込んで、夕日が沈んでいくのをぼんやり眺めながら話す。
なんだか青春、みたいだ。


「・・・いるよ。」


「え？！」


驚いた。
遥に好きな人がいるなんて、初めて聞いた。
学生時代も、社会に出てからも、一度もそんな話をしたことがない。


遥が好きになるのは、一体どんな人なんだろう？


「え？え？お前、好きな人いるの？」


「なんでそんなに驚くんだよ。」


遥は眉間に深いシワを寄せて俺を一瞥すると、視線をまたオレンジ色の海に戻した。


珍しくクロップド丈のパンツを履いて、ボーダーのシャツをきている彼は完全に海モード。
白のスニーカーは彼の誕生日に俺がプレゼントしたものだ。
遥は白のスニーカーは絶対買わないから、そういうものを毎年プレゼントしている。


「会社の人？」


「お前に関係ないだろ。」


彼は絶対口を割らなそうな態度だけれど、簡単にめげる俺じゃない。


「誰？誰？俺の知ってる人？」


遥が一瞬、真顔になった。

「お前も知ってるやつ。それ以上は絶対言わない。」


プイとそっぽを向いた彼の耳が赤いのは、夕日のせいなのか、それとも。

俺にはわからなかった。


「遥に恋人が出来たら、俺妬いちゃうかも。」


茶化して言うと、オレンジ色の綺麗な光の中で、眩しそうに目を細めながら遥が笑った。

波の音が心を洗っていく。



「馬鹿だな。」


「だよな。」


悪戯を共有した子どもの頃みたいに、俺と遥は顔を見合わせて微笑んだ。