私の部屋の彼。

aika

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人生最悪のクリスマス

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私は人生最悪のクリスマスを迎えていた。

信じていた彼氏は、親友の美沙と浮気してた。
こんなベタな失恋の仕方ってあるだろうか?


彼氏にサプライズプレゼントを用意するために、合鍵を使って彼の部屋に入ったら、玄関に女物の靴。
ただの女ならよかった。私が知らない女だったら。

その靴には見覚えがあった。私の部屋に毎日のように遊びに来る親友のピンヒール。
こんなに高いピンヒールを履いている女は、そうそう居ない。
長年女をやっているけれど、美沙以外にこんな靴を履いている女を見たことがなかった。


クリスマスに浮気が発覚して失恋。
YOUTUBEでもやっていればカッコウのネタになりそうな、オイシイ話なんだけれど。
そんな冗談をいくら並べ立てたって、目からは次から次に涙が溢れてくる。

馬鹿みたいだ。
誰かを喜ばせようとして、自分を不幸のどん底に陥れる結果になるなんて。
神様なんているはずない。クリスマスの夜にこんな仕打ち、いくらなんでも酷すぎる。
自分の部屋に着いた途端、私は玄関に座り込んだ。
冷たい床も、誰も居ない真っ暗な部屋も、全てがこの世の終わりみたいに悲しかった。


お酒を浴びるように飲んで、いつの間にか眠ってしまったみたいだ。
時計を見ると、クリスマスはとっくに終わってしまっていた。
彼氏から10件ほど着信があったのを見て、グラグラと目が回る。

これは噂によく聞く「絶望」っていうやつだ。
とうとう私の人生にも、絶望を経験する時期が来たみたい。

ふと、このままお風呂に入って眠ったらどうなるだろうか、という考えが頭をよぎる。
泥酔してお風呂に入って死ぬなんて、クリスマスに振られた女にふさわしい死に方じゃないか。

クリスマスのために用意した、彼好みの洋服。
この服を一緒に買いに行って選んでくれたのは、親友の美沙だった。
彼好みの露出が多いワンピース。

どおりで彼の好みがよくわかるはずだよねえ。
そんな嫌味も一人の部屋に響き渡るだけで、虚しく消えていった。




「いやいやいや、辞めた方がいいって、マジで。」

脱衣所でワンピースを脱ぎ捨てたら、すぐ後ろから人の声がした。


「え・・・?」

「いや、マジで辞めたほうがいいよ。そんな泥酔し切って風呂入るなんてさぁ。」

「!?」

洗面台の鏡を見ると、私のすぐ後ろにド派手な金髪の若い男が立っていた。



「はぁ?!?!?!?!」


「・・・はぁ?!じゃなくて、きゃ~~!!じゃない?ここは。」



きゃーーーー!!

自分のものとは思えないカナギリ声が部屋中に響く。

次の瞬間、世界が暗転していた。



♢♢♢♢



「・・・?!?!?!?!?!?」

目が覚めたとき、私は脱衣所の床でノビていた。
急に大声で叫んだせいで血行が良くなり、一気にお酒が回ったらしい。


「大丈夫?目、覚めてよかったぁ。」

金髪の男は、胸を手で撫で下ろす仕草をする。


「いや、あんた誰よ!?」

「え?あ、俺?」

この部屋に居て当然という雰囲気を醸し出している男は、意外な言葉を浴びせられたというように、心当たりのないキョトン顔でこちらを見た。



「何?!何なの?!泥棒?!変態?!痴漢?!サイコパス?!?!」

「お~お~、すごい言葉いっぱい出てくるね。君酔っ払いなのに、すごいじゃん。」

「酔いなんか瞬時に覚めたわ。つか、こわ!あんた何者!?」

下着姿でいる自分に今更気付き、床に投げてあったワンピースを手に取って胸元を隠す。


「あ~えと、この部屋の住人です。」

言いにくそうに苦笑しながら、そう曰う金髪男に私は完全にブチギレた。


「あぁ?んなわけあるかぁ!!警察呼ぶ。今すぐ呼ぶ。決めた。」

「いや~警察呼んでもいいけどさぁ。困るのはお姉さんの方だと思うよ?」


少しも慌てるそぶりがない。頭オカシイ奴確定!
ボリボリと頭をかきながら、参ったなぁと呟くこの男。


「はぁ?なんでよ。今呼んでやるから。」

そこ座ってろ!!と彼の薄い胸元を押したら、私の身体は前のめりに床に倒れ込んだ。


「・・・?!」

驚いて後ろを振り返る。
彼の体は、完全に私の身体をすり抜けていた。


「あ、言うの忘れてた。俺、幽霊ね。」


「・・・・はぁぁぁ・・・・!?!?」



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