悪の組織のイケメンたちに捕まったのですが、全員から愛されてしまったようです。

地味女のモテ期

朝食を運んできた完爾かんじと楓馬ふうまの師弟コンビと一緒に、金髪のイケメンが入室してきた。


「聴いたか？この前の俺の大活躍。」

「聴いたッス！女の子５人に囲まれてXXXしたっていうアレでしょ？」

「おい、栄華えいが。お前、楓馬に変な話吹き込まねぇでくれ。」


この悪の組織は、構成員の幅が広く、粒ぞろいだ。
一体どうやってスカウトしているのだろう。顔面偏差値が高すぎる。


ド派手な金髪のイケメンは、名前を栄華えいがというらしい。
毛先をクルクルと遊ばせた、いかにもチャラ男という印象で、とにかく目立つ。
悪人がこんなに目立ってどうするのだろう。仕事はやりにくくないのだろうか。

初めて見る男だった。


「女の５人くらい騙だませねぇようじゃ、いつまで経っても一人前になれねぇぞ、楓馬。」

「栄華さんみたいにハニトラ専門じゃないもん、俺。それに今の俺には、ユミさんがいるし！」

ド派手な男は、キョトン顔で楓馬を見る。


「ユミさん？」

「いや、だから、ユミさん。」


私を指差すと、楓馬はこちらに駆け寄ってきて後ろから抱きついた。

朝食のコーンスープを飲んでいた私は、彼に抱きしめられた衝撃でスープカップを落としそうになる。


「ちょ・・・楓馬君・・？！」

（近い近い・・・！楓馬君のほっぺ・・・柔らかぁ・・・♡）


彼はスリスリと頬擦ほおずりをして、ほっぺにチューまでしてくれる。

（朝からなんというサービス・・・♡ありがとう楓馬君・・・♡）


彼のほっぺの柔らかさと、無邪気さに、私は昇天しそうになった。



「え・・！おわ・・・ッ！？な、な、何だよ？この地味な女・・・！？」

栄華は今、私を認識したようで、こちらを見ながらすごい勢いで後ずさる。



「「「え？今・・？！」」」

私と楓馬、完爾の３人の声が、重なった。


（さっきからずっと居たんですけど・・。見えてなかったの・・・！？）

自分の武勇伝ぶゆうでん語りに夢中で、私の存在は視界に入っていなかったらしい。



「・・・えっと、ユミです。よろしくお願いします。」

手を差し出すと、彼の顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていった。


（え・・・？この人、ハニートラップ専門って今言ってなかった・・？まさかのウブ男・・・？）


「な、な、なんだよお前、新人か？！」


「いや、見ればわかるでしょ。どう見ても人質じゃん。」
声に振り返ると、いつの間にか扉の前に、ポニーテールの美しい女性が立っている。


コツコツとヒールの音を立てて、栄華に近づくとバシン！と勢いよく頭を叩き、「ほんとお前、馬鹿だね」と付け加えた。

「った！何すんだよ、美波みなみ！！」


「あ、言っとくけど俺、男ね。名前は美波。顔可愛いからって勘違いしないでよ？ちなみに、お姉さん、俺の好みなんだけど、付き合わない？」

黒髪ポニテールの男性は、ぐいと私の目の前に迫ってそう言った。

男だなんて信じられないほど、綺麗な顔立ちをしている。
ショートパンツから惜しげもなくさらされている美脚びきゃくは、女の私より遥に美しかった。


「美波、だめだめ！！このお姉さんは、俺が連れてきたんだから！！」

楓馬がよくわからない主張をするも、美波には全く通用していない。

「お前、間違って連れてきただけでしょ？」




「栄華えいがさん、美波みなみさん、よろしくお願いします。」

監禁されているというのに、よろしくも何もないだろう。
そう思いながらも、律儀りちぎにそう挨拶する。


「寄るな・・・！！俺は・・地味な女には免疫がないんだ・・！！す、好きになっちまうだろ・・・！」

大袈裟に騒ぎ立てる栄華を見て、美波は呆あきれ顔がおでため息を吐き出した。



（人を地味、地味って・・・この組織の奴らは・・・）

悪の組織のイケメンには、地味顔の女が人気らしい。

朝から騒がしいイケメンたちを眺めながら、私は途中になっていたコーンスープを飲み干した。