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『君じゃなきゃだめ』(SIDE 雫)
しおりを挟む自分でけしかけたくせに。
泰莉君と弥弦さんがW主演を務めるドラマの初回放送を見た俺は、湧き上がる複雑な感情に翻弄されていた。
物語は大物ミュージシャンとして孤独な人生を歩んできた男性が、夢溢れる俳優の卵と出会って「幸せとは何か」を知り変わっていくという、壮大なラブストーリー。
「こんな過激なシーンがあるなんて・・・知らなかった・・・」
芸能界という世界を、俺は全然知らない。
そもそもテレビやドラマを見ないし、恋愛にだって疎い方だ。
・・・弥弦さんが演じる忍と、泰莉君が演じる凌慈。
『凌慈、いい加減認めろよ。俺のことが好きだって。』
『はぁ?誰がアンタのことなんか好きになるかよ。』
彼ら二人の恋愛を辿るようなストーリーに、俺はテレビの前で一人取り残されたような気持ちになった。
泰莉くんに影響を与えられる一番の人は、弥弦さんなんじゃないかって今も時々不安になる。
どんなに酷い仕打ちをされても、泰莉君がなかなか別れられなかった人だから。
泰莉君が「初めて愛した人」だからーー。
今後も彼の人生に深く関わる人なんだと、ドラマを見て確信する。
『俺のものになれよ、凌慈。』
キスシーン。
いつか見た二人のキスシーンが、鮮明に蘇る。
あの日、俺を見つめていた弥弦さんの挑発的な視線。
愛おしそうに泰莉君の腰を引き寄せる、甘い仕草。
「あの日と、同じだ・・・・。」
胸がドキドキした。
泰莉君と一緒にいる時に感じる幸せなドキドキじゃなくて、胸がギュッと苦しくなるようなドキドキだ。
巧と一緒にいた頃は、毎日がこんなふうだった。
♢♢♢
「雫さん?どうした?」
「ううん、なんでもないよ?」
「その、なんでもないよ?・・・は、全然なんでもなくねぇんだよな。」
「え・・・?」
ふっと呆れたように苦笑しながら、俺を見る泰莉君の目が優しい。
どれほど忙しくても、彼はこの家に帰ってくる。
一日の終わりには、二人きりの甘い時間。
ご褒美みたいなこの瞬間が、たまらなく愛おしい。
「毎日雫さんのこと、どんだけ見てると思ってんの?気付くっつうの。」
俺の手を優しく包んで、「言ってみ?」と囁いた彼が、あまりにかっこよくて心臓が破裂しそうになる。
「ずるいよ・・・泰莉君・・・」
「何が?」
ドラマの中の彼よりも、今目の前にいる泰莉君が一番かっこいい。
俺だけに見せてくれる素顔の彼が、どんなドラマの中の彼よりも一番かっこよくて大好きなのだと気付かされる。
不穏な胸のドキドキは、いつの間にか収まっていた。
それなのに、今度は胸がキュンと甘く震えて止まらない。
「俺・・・泰莉君じゃないと、もうだめなのかもしれない・・・誰にも譲ってあげられないよ・・・?」
「何、俺のこと誰かに譲る気でいんの?結構薄情なんだな。」
ふっと苦笑した彼の顔。俺の髪をかき上げて、頭を撫でるいつもの癖。
瞳の中に宿る、俺への愛情。
「俺はとっくに・・雫さんじゃなきゃダメなんだけど?」
試すように俺を見た彼の全てに、呼吸をするのも忘れて見惚れてしまう。
俺はきっと彼に、永遠に恋をする。
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おなご様
コメントありがとうございます!ようやく結ばれました😍
喜んでいただけてとても嬉しいです😭
クズ攻めたちは、今後もまた登場予定です・・・😅笑
波乱の展開が好きな作者で申し訳ないです💦
色々ありながら二人が成長したり絆を深めていく様子を描けたらと思っていますので、今後もお付き合いいただけると幸せです☺️
いつも素敵なコメントをありがとうございます😍やる気が出ます😍
マイルアポ様
コメントありがとうございます☺️
色々な試練を乗り越えて成長していく二人を描いていけたらと思っています🎵
今後も泰莉と雫を見守ってくださると嬉しいです😊
おなご様
コメントありがとうございます!
弥弦さん、美影さんはほんと酷いですよね😅笑
でも弥弦さんも被害者だなんて・・深く読み込んでくださっていてすごく嬉しいです😭
どちらかが極端に我慢する関係って無理が生じてしまいますよね。。
今後、弥弦&美影、夏弥の関係性も展開していく予定なので、ご覧いただけると幸せです☺️
雫と泰莉の成長を感じてくださっていて、素敵なコメントに感動しております。
いつでも何度でもコメントお待ちしてます😍❤️
色々書いておりますがコメントいただけることはなかなか無いので、とても嬉しいですし励みになります🙏
いつも温かいお言葉をありがとうございます!