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『動き出した歯車』(SIDE 泰莉)
しおりを挟む「はぁ・・・?恋愛ドラマ・・・?弥弦・・・さんと・・・?」
事務所の社長に呼び出され言い渡された、次回の大仕事。
弥弦さんと俺・・・W主演の恋愛ドラマ。
思ってもみなかった仕事の依頼に、心臓が不穏なリズムを刻む。
神崎 弥弦。
海外で活躍中の、元恋人。
その名前を聞いても動揺しない程度には、彼のことを吹っ切れたと思っていたのに。
「笑えねぇー・・・・」
大物ミュージシャンとの恋を描く、バリバリの甘々恋愛ストーリー。
企画書をめくる指が、わずかに震える。
(これ・・・実話じゃねぇだろうな・・マジで笑えねぇ~・・・・)
「このドラマは、インモラルの10周年企画の一つとしてあたためていたものなんだ。」
「なんで・・・俺なんすか。」
うちの事務所には俺クラスの俳優なんてたくさんいんだろ。
内心悪態をつくも、胸のざわつきは大きくなるばかりだ。
何故俺にオファーが来たのか、その理由が知りたい。
「弥弦のご指名なんだよ。相手役はお前がいいって。泰莉じゃなきゃやらないって言ってな・・長い時間かけて準備してきた10周年企画を台無しにしないためにも、お前の力が必要なんだ。」
わかるよな・・?と俺の顔色を伺う社長は、弥弦さんのわがままにいつも振り回されている。
彼が心底困り果てているのが、痛いほどわかった。
(あの男・・・一体何考えてやがる・・・・クソ・・・)
かつて一緒に生活していた、元恋人。
同じ事務所に所属している以上、弥弦さんと顔を合わせずに生きていけるとは思っていなかったけれど・・・まさか恋愛ドラマの相手役なんて。
♢♢♢
「俺は・・・受けるつもりねぇよ。」
「・・・そうなの?」
夕食後、雫さんにオファーについて話すと、予想していたのとはまるで違う反応が返ってきた。
彼は食器を片付けながら、いつも通りの穏やかな表情で俺を見る。
「そうなの?って・・・雫さんは嫌じゃねぇのかよ。あの・・弥弦さんだぜ?」
雫さんの前で、久々に元恋人の名を口にした。
肌の上をぞわりと妙な違和感が走る。
弥弦さんが俺の心につけた深い傷は、報われなかった愛情の烙印に思えて、今でも胸が苦しかった。
「俺がどう思うかじゃなくて・・・泰莉君がどうしたいかを考えて。」
「なんで・・っ・・・・俺は、雫さんのことを第一に考えたいだけで、」
「泰莉君・・・これは仕事の話でしょう?」
「・・・っ・・・そうだけど、」
雫さんが口にする言葉は紛れもない正論なだけに、時々ひどく俺を追い詰める。
「泰莉君が・・弥弦さんからデートに誘われたんなら、行かないでって俺は言うよ?でも・・泰莉君の今後のキャリアにも関わる話だし、仕事としてやるべきなのか・・じっくり考えてみたらどうかな。」
落ち着き払った彼の態度に、俺は内心イライラしていた。
雫さんはいつも大人で、俺にとって最善の道を示す。
でもそうじゃなくて・・俺はただ恋人としての彼の言葉が聞きたかった。
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