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『さよならの前に』(SIDE 雫)

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あの夜、俺は泣き疲れて泰莉たいり君に抱きしめられたまま眠ってしまった。

数日ぶりに帰ってきたたくみは何事もなかったように振る舞っているけれど、長年の付き合いで俺には全てがわかってしまう。

やっぱりダメだ、と何度も何度も注意深く確認して、ようやくGOサインを出す。
思えば俺の性格は、子どもの頃からちっとも変わっていなかった。

巧と久しぶりに休日を一緒に過ごす。
初めてデートした思い出の水族館に行って、二人お気に入りのイタリアンレストランでランチして、本屋に寄る。
お決まりのデートコース。

「昔はよくお互い読んでほしい本を買って、プレゼントし合ったよね。」

「あぁ、懐かしいな。しずくの選ぶ本は俺が読まないジャンルだから新鮮だった。」

過去の話ばかりしている自分たちに、苦笑し合う。
久々にたくさん話をして外でディナーまで済ませた俺たちは、ほろ酔いで機嫌よく帰宅した。


「雫・・・」

部屋に戻ると、巧が突然俺を押し倒す。

「巧・・・ッ・・」

彼の指先が、俺の身体に触れる。
彼への裏切りにもう耐えられないと思っているのに、俺の身体は単純に雄としての快楽を求めて興奮していた。

どんな思いを抱えていても、身体は刺激に対し素直に反応する。

「あ・・っ・・やだ・・・・」

自分がただの動物なのだと思い知らされる欲望に、初めての屈辱を味わう。

(これじゃあ、浮気する人間と変わらないじゃないか、)

アルコールが身体を心地よく火照らせて、欲望に忠実になれと理性を鈍らせる。
胸の突起を執拗にいじられ、下半身が疼くのを抑えられなかった。

「やだ・・巧・・・」

「雫・・・こんなにして・・・どうした?そんなに俺が欲しかったか?」

耳元で囁かれる無神経な彼の言葉にさえ、ビクンと体が大きく震えてしまう。

(そうじゃない・・・違うのに・・・)

今夜は激しく貫かれて、メチャクチャにされたい気分だった。
わけもわからず快楽に溺れて、悩みもくだらない意地もこだわりも全てを忘れてしまいたい。

いつまでも俺を縛り付ける巧を許せないという感情も、人のせいにして堂々巡りする答えの出ない自分探しも全て。
何もなかった頃の、フラットな自分に戻りたかった。

「あ・・ダメ・・・っ・・・」

こんなことをしても余計に自分が嫌いになるだけとわかっているのに。

「雫・・・」

先端から溢れ出る先走り。
包み込んで優しく擦り付ける手のひらの感触に、甘い声が漏れた。

「ひぁッ・・ああぁッ・・・・う~~、、」

自分の声じゃないみたいだ。
獣みたいにただ欲望を追い求めて腰を揺らす。

どんなに興奮していても巧は前戯をないがしろにすることはなかった。
俺の身体を傷つけないように配慮してくれる彼が愛おしくて、大好きだった。

「いいから・・メチャクチャにして・・・っ」

優しくなんてされたくない。

彼の肉棒を手のひらで握り込むと、俺は彼の上に乗る。
入り口に彼の先端をあてがうと、ズプンと一気に受け入れた。

「あ・・う・・ぅ・あ・・・雫・・・ッ」

彼への恨み言全てを打ち消すように、快楽に耽る。

「んん・・・ッ・・あ・・・!!」


果てた後、残ったのは強烈な虚しさと後悔。
愛情なんて幻想は、俺の中に一つも残っていなかった。


♢♢♢


俺をここまで追い詰めたのは、巧ではなく自分自身だ。
事後、彼の腕の中で束の間のまどろみから目覚める。

かつてこの腕の中に、俺の幸せの全てがあった。

「ごめん、巧。」

彼が、俺を見る。

「別れよう?」

長い間言えずにいた言葉が、すんなりと唇からこぼれ出た。

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