34 / 53
『さよならの前に』(SIDE 雫)
しおりを挟むあの夜、俺は泣き疲れて泰莉君に抱きしめられたまま眠ってしまった。
数日ぶりに帰ってきた巧は何事もなかったように振る舞っているけれど、長年の付き合いで俺には全てがわかってしまう。
やっぱりダメだ、と何度も何度も注意深く確認して、ようやくGOサインを出す。
思えば俺の性格は、子どもの頃からちっとも変わっていなかった。
巧と久しぶりに休日を一緒に過ごす。
初めてデートした思い出の水族館に行って、二人お気に入りのイタリアンレストランでランチして、本屋に寄る。
お決まりのデートコース。
「昔はよくお互い読んでほしい本を買って、プレゼントし合ったよね。」
「あぁ、懐かしいな。雫の選ぶ本は俺が読まないジャンルだから新鮮だった。」
過去の話ばかりしている自分たちに、苦笑し合う。
久々にたくさん話をして外でディナーまで済ませた俺たちは、ほろ酔いで機嫌よく帰宅した。
「雫・・・」
部屋に戻ると、巧が突然俺を押し倒す。
「巧・・・ッ・・」
彼の指先が、俺の身体に触れる。
彼への裏切りにもう耐えられないと思っているのに、俺の身体は単純に雄としての快楽を求めて興奮していた。
どんな思いを抱えていても、身体は刺激に対し素直に反応する。
「あ・・っ・・やだ・・・・」
自分がただの動物なのだと思い知らされる欲望に、初めての屈辱を味わう。
(これじゃあ、浮気する人間と変わらないじゃないか、)
アルコールが身体を心地よく火照らせて、欲望に忠実になれと理性を鈍らせる。
胸の突起を執拗にいじられ、下半身が疼くのを抑えられなかった。
「やだ・・巧・・・」
「雫・・・こんなにして・・・どうした?そんなに俺が欲しかったか?」
耳元で囁かれる無神経な彼の言葉にさえ、ビクンと体が大きく震えてしまう。
(そうじゃない・・・違うのに・・・)
今夜は激しく貫かれて、メチャクチャにされたい気分だった。
わけもわからず快楽に溺れて、悩みもくだらない意地もこだわりも全てを忘れてしまいたい。
いつまでも俺を縛り付ける巧を許せないという感情も、人のせいにして堂々巡りする答えの出ない自分探しも全て。
何もなかった頃の、フラットな自分に戻りたかった。
「あ・・ダメ・・・っ・・・」
こんなことをしても余計に自分が嫌いになるだけとわかっているのに。
「雫・・・」
先端から溢れ出る先走り。
包み込んで優しく擦り付ける手のひらの感触に、甘い声が漏れた。
「ひぁッ・・ああぁッ・・・・う~~、、」
自分の声じゃないみたいだ。
獣みたいにただ欲望を追い求めて腰を揺らす。
どんなに興奮していても巧は前戯を蔑ろにすることはなかった。
俺の身体を傷つけないように配慮してくれる彼が愛おしくて、大好きだった。
「いいから・・メチャクチャにして・・・っ」
優しくなんてされたくない。
彼の肉棒を手のひらで握り込むと、俺は彼の上に乗る。
入り口に彼の先端をあてがうと、ズプンと一気に受け入れた。
「あ・・う・・ぅ・あ・・・雫・・・ッ」
彼への恨み言全てを打ち消すように、快楽に耽る。
「んん・・・ッ・・あ・・・!!」
果てた後、残ったのは強烈な虚しさと後悔。
愛情なんて幻想は、俺の中に一つも残っていなかった。
♢♢♢
俺をここまで追い詰めたのは、巧ではなく自分自身だ。
事後、彼の腕の中で束の間のまどろみから目覚める。
かつてこの腕の中に、俺の幸せの全てがあった。
「ごめん、巧。」
彼が、俺を見る。
「別れよう?」
長い間言えずにいた言葉が、すんなりと唇からこぼれ出た。
20
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる