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『傷心』(SIDE 雫)
しおりを挟む「泰莉君・・?帰ってる・・・?」
ここ数日、泰莉君の様子がおかしかった。
雨の夜にずぶ濡れで帰ってきて、それきり姿を見ていない。
朝早く仕事に出掛けて、夜遅く帰宅する。
そんなことは以前から何度もあったのだけれど、俺は何故か彼のことが気になって仕方なかった。
「何?」
部屋の扉を開けた彼はいつもと変わらぬ様子で、俺を見る。
「ちょっと話せる?」
「あ~悪い、今はちょっと・・仕事の資料読んでて、」
「あ、そうなんだ。ごめんね。邪魔しちゃって。」
いつもの彼と、何かが違う。
彼は疲れきっていて、身体も心も無意識のうちにSOSを発しているように見えた。
「もういい?忙しいから。」
扉を閉めようとした彼に、一歩近づいて制止する。
「ごめん、やっぱり話したい。」
「・・・・」
彼は俺から目を逸らして、黙り込んだ。
イライラしているのは、忙しいせいなんかじゃない。
彼がひどく傷ついているのだと、そう思った。
理由も根拠も何もないけれど、ただそう思ったのだ。
「今、俺すげぇ荒れてるから、ごめん。雫さんのこと傷付けたくねぇんだわ。」
俯いたままそう言った彼が、俺の想像よりずっと傷ついているのがわかる。
「ちょうどよかった。俺、今誰かに傷つけて欲しい気分だから、お願いします。」
馬鹿げたことを言っているのは自覚しているけれど、どうしても今夜は泰莉君と過ごしたかった。
「何だよ、それ。アンタ、時々ほんと意味わかんねぇ・・・っ」
降参、と言うように彼は部屋の扉を開いて、俺を招き入れる。
初めて入る泰莉君の部屋は、雑誌や服、帽子などのファッションアイテムがたくさんあって、今時のおしゃれな若者という感じの印象だった。
ファッションや流行りに疎い俺には、わからないものだらけだ。
適当に座って、と言う彼に従い、大きなソファに腰掛けると、彼がすぐ隣に座った。
「何で気付いた・・?顔合わせてもねぇのに。」
明るいところで見ると、彼は泣き腫らした目をしていた。
弥弦さんと何かあったのだろうと察したけれど、深く追求するのはやめる。
「わからない。泰莉君のことは、何となくわかるって言うか・・・」
「論理的じゃないこと平気で言うよな。雫さんってすげえ常識人に見えんのに。」
「大人なんだし放っておくべきだって頭では思っているのに変だよね、泰莉君のことが気になって・・・そばに居たいって・・・」
言葉に詰まる。
彼が俺の頭を腕で抱えるように包んで、ポンポンと頭を撫でた。
「これ逆じゃない・・・?俺がやりたいんだけど、それ。」
「いや絵面的におかしくね?雫さんはやられる側だろ。」
「どっちでもいいけど・・・今夜はそばに居させて・・?」
彼が俺の胸に顔を埋めて、甘えるように抱きついた。
今度は俺が、彼の頭を優しく撫でる。
俺たちはそんなふうに寄り添いながら、初めて二人で夜を明かした。
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