【※R-18】片恋偏差値(ミュージシャンX俳優X高校教師)

aika

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『カモフラージュ』(SIDE 泰莉)

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しずくさんは、浮世離れした男だった。

懐かしいものでも見るように目を細めて笑う彼の顔に、一瞬見惚れる。
最近売り出し中の若手俳優としてそれなりに知名度が上がってきたと満足していた俺の自信を、彼はあっけなく砕いた。

泰莉たいり君、今日からよろしくお願いします。」

最初から笑顔で近づいてくるやつは信用しない。
それがここ数年、俺のモットーだった。

芸能界という特殊な世界に飛び込んでから、人間不信に陥るような場面を何度も目にしてきたから。


タイムスリップでもしてきたのだろうかと思うほど、雫さんは何も知らなかった。俺はもちろん、弥弦さんのことも知らなかった。
俺の恋人である弥弦みつるさんは、彼らの曲を聞かない日はないというくらい大人気のロックユニット「immoral」のボーカルとして有名だ。

「弥弦さんを知らないとかマジかよ・・・帰国子女とか?いや、海外でも売れてるしな弥弦さん。」

「そういう人を探してもらったの。これから一緒に暮らすんだから態度考えろよ、お前。」

雫さんの浮世離れぶりに引きまくりの俺に、弥弦さんは小声で釘を刺す。

弥弦さんとは、同じ事務所の先輩後輩として出会った。
彼は気分屋で性格極悪、音楽以外は廃人同然の典型的なダメ男だが、外面だけは良い。


「すみません、俺、そういうの疎くて・・・生徒たちにもいつも驚かれるんです。」

雫さんが申し訳なさそうに、俺たち二人を交互に見る。

「生徒?」

「俺、高校教師なんです。」

どおりで浮世離れしているはずだ、と納得する。

教師という生き物は学校という特殊な場所にのみ存在する生き物だ。
現実社会のことは、何も知らない。

無理なことを平気で要求してくるし、意に沿わないことがあると大義名分を振り翳して言いくるめようとする。
学生時代ヤンチャしていた俺には、教師とのいい思い出が一つもなかった。

「遅れてすみません、」

「巧、遅かったね。お疲れ様。」

入室してきた男の体格の良さと、彼を見て破顔した雫さんの柔らかい表情に、俺は二度驚く。

もう1人のルームメイト、遠野とおの たくみ
彼も雫さんと同じ高校の、体育教師なのだと説明してくれた。

「俺と巧は、幼馴染なんです。小学校から大学までずっと一緒で、」

「職場も一緒なんだ?仲が良くていいね。」

「雫はしっかり者に見えるんですが、危なっかしくて。俺は世話役みたいなものなんです。」

短髪で精悍な顔立ち、ハキハキとよく通る声。
背が高くハンサムで逆三角形の身体・・・男にも女にも人気がありそうなタイプだ。

弥弦さんは完璧な営業スマイルを浮かべながら、2人の仲良しエピソードをうんうんと聞いている。
俺と弥弦さんの関係は、この2人にも知られるわけにはいかない。

チラリと弥弦さんを盗み見た。
昨夜俺の上で激しく腰を振って果てた彼の顔を思い出して赤面する俺は、この人に相当やられている。

同じ事務所の先輩後輩とはいえ、大の男が二人きりで暮らしているとなれば変な噂が立つ。
カモフラージュのために一緒に住んでくれる人を、探してもらったのだ。
友人4人で暮らしているといえば、スキャンダル対策になるだろう。

(弥弦さん、なんも考えてねぇんだろうなぁ・・・)

これから始まる共同生活を思いながら、俺は深いため息を吐き出した。
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