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『プラトニック』
しおりを挟む「なぁ、これ以上はまずい。アンタの夫たちに顔向けできねぇよ。」
ハァハァ、、と、荒ぶった呼吸音が、アトリエ内に響きわたる。
私たちは触れ合うことなく、お互いの興奮を高める術を持っていた。
志方凌と至近距離で見つめ合う。
ただそれだけで、彼に抱かれている気分になる。
(芸術家って・・・なんでこんなにエロイの・・・・?!)
煌大といい、志方といい、イケメン芸術家は身に纏っている雰囲気がすでにエロイ。
彼の視線が、私の肌を滑る。
首筋にかかる、彼の吐息。
指一本触れていないのに、近づくだけでお互いの欲情を感じる。
「人妻相手に変な想像してるってだけで、十分重罪だよな。」
(変な想像って何・・・・!?知りたい・・・して欲しい・・・・・!!!)
人妻、という言葉に、自分の立場を自覚する。
私の裸を前に興奮する彼の官能的な顔を見ているだけで、達してしまいそうだった。
ヌードを描きたいという彼の要望に合わせて身体を覆っていた布を取り払い、形が良くない胸も夫にしか見せない部分も全てを彼の前に曝け出している。
(全部を彼に見せてるのに・・・触れられないなんて・・・・もどかしい・・・)
「プラトニックな愛なんて、いかにも芸術家って思われちまいそうだな。」
「志方さん・・」
「繭・・・」
いけないと思えば思うほど、興奮するのは人間の本能なのだろう。
「どうして・・・今日、ここに来たんだ?」
(こんなイケメンにヌード描きたいって言われて、断れる女いる・・・・?!)
「志方さんが描いてくれる自分のヌードが見たかったから・・・かな。」
彼は私の肌に触れることなく、熱い視線で私を犯していく。
「今日は、愛ちゃんが迎えにくるから・・・」
道を踏み外さないように、先日退院した愛に迎えを頼んだ。
不倫はだめ、不倫はだめ、と心の中で呪文のように繰り返す。
「良かったよ。・・じゃなきゃあんたに、触れずにはいられなかった。」
唇が重なりそうなほど近づいて、数十秒。
彼は決意したようにパッと私から離れ、定位置に戻る。
「全部見せてくれて、嬉しいよ。あんたのことがもっと好きになった。」
「綺麗に・・描いてくださいね。」
「綺麗なもんは、綺麗にしか描けねぇよ。」
彼はペンを手に取ると、ふっと寂しそうに微笑んだ。
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