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『おかえり』

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あいちゃん、おかえりなさい!!」

無事我が家に戻ってきた愛のために、夫たちがサプライズで食事会をセッティングしてくれた。

夫の一路いちろが経営する、ホテルのレストランを貸し切る。
人数が人数だけに、まるで披露宴のような華やかさだ。


「ちょっと・・豪華過ぎない?逆にただいま!って言い辛いんだけど。」

一言コメントください!とマイクを渡された愛が、気まずそうに苦笑している。

家族全員で外食なんて滅多にないイベントなので、私たちは数日前からテンションが上がりまくっていた。


「なんか結婚式みたいっすね!!」

結婚式であれば新郎新婦が座るであろう席に、愛と共に座らされる。


「愛ちゃん、おかえりなさい。不束な嫁ですが、今日からまたよろしくお願いいたします。」

「だから~、そういうのマジでやりにくいんだけど!真琴まことがすごい形相で睨んでるし・・!」

独占欲の強い夫、真琴が、恨めしそうに愛を睨みつけている。

「愛だけズルイ。俺もまゆと挙式する。」

会場がドッと沸く。
夫たちの笑い声、その声に驚いて泣き出したハルとシノブの泣き声さえも、全てが幸せに満たされていた。


耀亮ようすけ、お前大丈夫かよ。顔色悪くね?」

「問題ない。お前こそちゃんと食えてんのか?シノブ抱いててやるから、ゆっくり食えよ。」

妊娠中の夫を、周りが自然にサポートする。
子育ても、家族みんなで取り組む姿勢が常にあって、一体感が増した我が家は最強だった。


一路いちろさん、会場貸し切ってくれてありがとうございます。」

「みんな楽しんでくれてるみたいで良かったよ。ずっと留守にしてて悪かったな。」

テキパキと指示を出して会場を仕切ってくれている一路の元へ行き、声をかける。
数ヶ月前に籍を入れたのに、彼ときちんと顔を合わせるのはこれが2度目だった。

一路は世界中に会社を持つ経営のプロで、巨額の富を築いた天才らしい。
忙しくあちこち飛び回っていて、ゆっくり帰宅する時間がなかった。
夫たちとはこの数時間ですぐに打ち解けたらしく、もはや輪の中心にいる。

明るい茶色の髪に、黒縁メガネがトレードマークのイケメン。

デキる大人の男。
いかにも若き経営者という風貌だ。
凝ったデザインのスーツがよく似合う。


「おい、いつきいずみ、お前らまだ酒飲めねぇだろ。追加でオレンジジュースでも頼め。」

お酒の味見をしてみたいとコソコソ話している最年少組に気づいて声を上げる。
落ち着いた印象の強い彼が、意外にも荒々しい喋り方をするので驚いた。

グイグイ引っ張っていってくれる一路が家族に加わってくれるのは頼もしい限りだ。


「今夜は、あいとゆっくりスイートで過ごせるように手配しておいた。」

カードキーを手渡されて、初めて一路の身体に触れる。

「あ、ありがとうございます・・!」

仕事が最優先の経営者。
夫たちと楽しそうに話す彼の素顔が、意外にも気さくで面倒見が良くて、ギャップにやられてしまいそうだった。

手が触れるだけで、ドキドキする。


「明日の夜も、ここのスイートをとってある。一晩、一緒に過ごさないか?」

他の夫たちに聞こえないように耳打ちした彼の顔が、ほんのり赤い。

「はい・・よろしくお願いします。」

慶斗けいとが2人で過ごせるように気を遣ってくれたんだが・・なんだか照れくさいな。」

彼の熱い視線を受け止めながら、私は赤い顔で頷いた。




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