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『俺の子どもを産んでほしい。』

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「子どもを産むのが怖いなんて、そんな情けない気持ち・・・あいにはわかんないだろうな。」

何気なく口にした煌大こうだいの一言に、愛が声を押し殺すように呟いた。


「・・・わかるよ。」

即答した愛に、驚いたように煌大が顔を上げる。


「俺もわかるって、言ってんの。」

悔しさと苦しさが、混ざり合った声音。
私は彼が、泣いているのだと思った。


「そりゃあそうじゃん。男の身体で妊娠出産なんて、怖くない方がどうかしてるよ。」

「おい、愛・・何、ムキになってんだよ。落ち着けって。」

子どもを作れない体になったのだということを、愛は誰にも言えずにいたのだろう。
湧き出した感情を止める術がわからない。そんな風だった。

「俺だって怖い。・・・怖かった・・・。でも・・・・・、」

ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。
木目が剥き出しになったアトリエの床に、彼の涙が静かに吸い込まれていった。

何が起きているのか理解が追いつかない煌大と、全てをわかっているのに何も出来ない私。


「それがどれほど贅沢な悩みだったのかって・・・子どもが作れない体になって初めてわかった。」

彼にかける言葉が見つからない。
高熱のせいで彼は子どもを作ることができない体になってしまった。

愛が経緯を説明する間中、煌大は真剣な顔で黙ったまま彼の言葉を聞いていた。




「俺の子を、産んでくれないか?」

長い沈黙の後、煌大が口にした言葉に、愛は怒りを露わに食いつく。

「はぁっ?!・・・こんな時に冗談言うな!お前・・っ・・・最低・・・ッ!!」

「冗談なんかじゃない。愛、お前に・・・俺の子どもを産んでほしい。俺と愛と繭の子ども・・・お前に産んで欲しいんだ。」

煌大の言葉に愛がハッとしたように肩を震わせた。


「ハルとシノブを見て、思った。あいつらは、俺ら家族全員の子どもだって。お前はハルとシノブの父親だし、俺も二人の父親だ。」

「そりゃあハルやシノブのことは大事だし・・・俺たち全員の子どもだって、俺も思ってるよ、」

「だろ?誰の子どもだとか、そういうの俺たち家族にはもう関係ないんだし、俺の精子でお前が産んでも問題ないだろ。」

「キモイ言い方すんなっ・・・!!」


「なぁ、まゆ。3人で子づくりしないか?」

「え、あ、うん。私は賛成!」

自分でも驚くほどあっさりと、私の心は決まっていた。
愛が信じられないという顔で、私を見る。


「繭、本気で言ってんの?」

「私も煌大君と同じ気持ち。愛ちゃんとは何があっても離婚しない。別れたくない。ずっと一生一緒にいたい。私たちもう・・どうしようもないほど家族なんだもん。」


頭で何も考えてないのに、スラスラと言葉が出た。
代理出産制度を適用すれば、愛が夫であることに政府も異論はないはずだ。

愛の目からまた大粒の涙が溢れだす。


「俺も・・繭と、別れたくない・・・っ」

別居していた夫の愛情が少しも変わっていないことに安心しながら、私は彼を抱きしめ返した。



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