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『陣痛促進』

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色男が痛みに耐える姿を「美しい」と感じるのは異常なのだろうか。
そんな不謹慎なことをぼんやりと考えながら、夫の手を握る私は妻失格だ。

「痛って・・ぇ・・・・」

10分間隔で襲いくる陣痛という名の、壮絶な苦しみ。

陣痛は女性だから耐えられるものであって、男性にその痛みを与えると気絶する。
そんな比喩をよく耳にしていたけれど、それは嘘だと思う。

事実、夫の桜雅おうがは気絶せず、今まさにその苦しみに耐えているのだから。

「マジで痛てぇ・・!!かえでのやつ、よくこんなの耐えられたな。」

もしくは私が知らないだけで、気絶しないように医学的処置がなされているのかもしれない。
細かい処置内容を聞くと私が動揺するからと、慶斗けいとが主治医との間に入り配慮してくれていた。


「桜雅君、今のうちに水分補給しておこう。」

陣痛が過ぎ去ると、何事もなかったようにいつもの桜雅に戻る。
痛みの最中、頭の血管が浮き出るほど声を荒げている彼は、今はまだ余力があるようだった。
しずくが桜雅の横に終始寄り添い、絶妙なタイミングで完璧なサポートを見せている。

「雫さん・・・俺、マジで無理かも・・・」

「俺がずっとそばで支えるから、一緒に頑張ろう?」

ぐったりと雫の肩にもたれかかる桜雅は、ストローで水を飲ませてもらいながら、気合を入れ直す。

「・・・よっしゃ、雫さんが居てくれるし、頑張れそうな気がしてきたわ。」

至近距離で見つめ合う、夫と夫。

(いや、それ妻の私の役目・・・・・)


桜雅と雫の息ピッタリのやり取りに、私の出る幕はない。
頼もしさと、少しの寂しさを感じながら、今回こそは貧血を起こさないよう、私も気合を入れる。

立ち会い出産は、二度目だ。


「慶斗さん、促進剤もっとバーっといっぺんに入れられないんすか?」

なかなか縮まらない陣痛の感覚。
長時間苦しんでいる桜雅は、イライラしながら慶斗に言葉をぶつける。

「桜雅の身体と、赤ちゃんの身体に負担がかからないように、ちゃんと進めてるから大丈夫だよ。」

「全然っ・・・大丈夫じゃねぇよ・・・っ」

さすが慶斗は医者の余裕を見せ、今にも暴言を吐き出しそうな桜雅に笑顔で対応し、私に指示を出す。

「繭、桜雅の手を握ってあげて?」

私に出来ることは、少ない。
立ち会い出産の場ではいつも、自分の不甲斐なさに涙が出てくる。

「桜雅君。私もそばにいるよ。」

月並みな言葉しか出てこなくて、情けない。
私はこれからもずっと、夫の出産に立ち会いながらこんな思いをするのだろうか。


♢♢♢


「桜雅君、繭が手を握ってあげると全然違うよね。」

飲み物を買いに廊下へ出ると、入れ違いに雫が戻ってきた。

「え?そうかな・・・?」

思わぬ言葉に驚く。
「気付いてなかった?」と彼は優しく微笑んだ。

「表情が和らぐっていうのかな、それから闘う男の顔に変わる感じ。繭の前では泣き言言ってられないって気持ち、俺も少しわかるな。」

彼の視野の広さに驚く。
出産の立ち会いで桜雅に付きっきりの雫は、私の独りよがりな感情にまで気を配ってくれている。


「私なんて、いつも何もできなくて・・」

「繭がいるから、みんな頑張れるんだよ。どんなに痛くても苦しくても・・・桜雅君は頑張るよ。俺も、繭との子どもだったら、どれほど辛くても産みたい。」

珍しく強い口調で言い切った雫に、驚いて言葉が出なかった。


家族で乗り越える一大イベント、出産。
夫たちそれぞれの向き合い方、支え方がある。

桜雅と私の子どもは、どんな顔をしているだろう。
もうすぐ彼に会えるのだと思うと、たまらない愛おしさが込み上げてきた。


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