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『婚姻届』
しおりを挟むクチュ、っといやらしい音を立てて、奏が私の唇を吸う。
二人の唇が重なるのを、蘭がじっと見つめている。
恥ずかしくて逃げ出したいけれど、奏の舌が巧みに私の口内を荒らしていくうちに、どうでも良い気持ちになった。
「・・んぅ・・・奏・・・さん・・・っ」
まさにこの世の天国・・・なけなしの理性がいとも簡単に吹き飛んだその瞬間、部屋のドアが勢いよく開く。
「あれぇ?え、3人とももう始めちゃってんの?やばい俺、エッチの邪魔しちゃった?!」
「バカ、樹、ノックしろってあれほど言ったのに・・・」
最年少組の樹と泉が、気まずそうに言い合っている。
「慶斗さんが呼んでる。婚姻届の準備できたから、部屋に来いって。」
泉は目を逸らしながら素っ気なく吐き捨てると、その場を去っていった。
♢♢♢
「婚姻届・・・・?」
目の前に置かれた書類を見て、私は助けを求めるように慶斗を見た。
「あれ?蘭と奏から聞いてないの?」
テーブルに必要書類を次々並べている慶斗が、苦笑しながら蘭と奏に視線を送る。
「元々、奏は、婚姻者リストに載ってたんだよ。」
慶斗の言葉を補うように、蘭が口をひらく。
「僕も奏もリストに載ってて・・僕がどうしても繭さんと結婚したかったから、奏は身を引いてくれたんです。でも・・」
兄弟で同じ妻と婚姻関係を結ぶのは、さすがに気が引けたのだろう。
子どもを持ちたいという強い意志がある蘭の気持ちを尊重して、奏は身を引いたのだという。
「でも・・・俺も繭のことが好きになって、どうしても結婚したくなったんだ。」
サラリと言ってのける奏を、信じられない気持ちで見つめる。
「本気で君のことが欲しくなった。俺と、結婚してくれる?」
私のことを散々揶揄っていた彼が、思いがけず真剣な瞳をこちらへ向けたので戸惑う。
「・・・何があっても、どんなことが起きても、一生添い遂げるって誓ってくれますか?」
自分の口から出た言葉に驚く。
そんなふうに考えたことは、今までなかった。
夫たちとは当たり前に、一生一緒にいられるものだと思っていたから。
「当然。何があったとしても、繭は一生俺の妻だよ。君は誓える?」
即答した彼に、心臓がドクンと高鳴った。
奏の目に、迷いは微塵もない。
挑発的に私を見つめ、張り合うような彼の態度が愛おしくさえ思える。
「誓います。私は絶対、離婚しませんから。」
最近いつも私の頭に浮かぶのは、別れようと言った愛の顔だった。
「繭さん僕と結婚する時はそんなこと言ってくれなかったのに、なんだか妬けちゃいます・・・。」
「同感だね。」
蘭と慶斗が、顔を見合わせて苦笑する。
家庭を築き、守っていく覚悟。
結婚当初は想像もしなかった気持ちが、いつの間にか私の心の中にしっかりと芽生えていた。
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