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『家族』

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「なんでしずくは、いつもあんな風に平気な顔していられんの?俺が目の前でまゆといちゃついても、いつも平気な顔してるし・・俺には、全然理解できない。」

2階の自室から階下に降りてくると、真琴まことの声が聞こえてきた。

見るとリビングの扉の前に、雫が立ち止まっている。
しーっと人差し指を立てて、手招きされるがまま、私は彼の隣に立った。

扉からこっそりリビングを覗くと、真琴が桜雅おうがとソファーに座って話をしている。


「いやいや、ああ見えて雫さんって恐ろしく嫉妬深いから、気をつけろ。大和やまとさんと色々あって、すげぇ大変だったんだから。」

「雫でも、嫉妬とかすんの?それは意外だな・・・。俺は繭を独占したくてたまらない。他の奴と話してんの見るだけで、すごく辛い。」

「繭ちゃんを独占したいって?・・いや~、そんなん普通じゃね?俺だって未だに他の男が繭に触るのは、心底ムカつくぜ?」

(桜雅君・・・・♡そんなふうに思ってくれてたんだ・・・・♡)


うちの夫たちは皆、優しくて大人だ。

一妻多夫制なんて、夫たちがいがみ合っても不思議がない制度なのに、これほど穏やかに暮らせているのは、彼らの努力と思いやりの賜物だといつも思う。

直接的に嫉妬心をぶつけられることはあまりないけれど、そういう一面を見せてくれるのは純粋に嬉しかった。


「正直、繭の第一夫は俺だって思ってるし。あいつが他の夫に頼ってるの見たら、なんで俺じゃねぇのかとかムカついたり、みんな言わねぇだけで結構内心はドロドロしてると思うぜ。」

桜雅の言葉に、胸がキュンとなる。
大人の振る舞いの裏で、そんな可愛いヤキモチを妬いてくれているとは。

「お前もそのうちわかると思うけど、ここで暮らしてる奴らって、みんな馬鹿みたいに良い奴ばっかだから・・・いつの間にか全部ひっくるめて家族、って感じになってんだよな。」

「ふぅん。そんなもん?」

簡単には納得できないという雰囲気で、真琴が呟いた。


かえでがハルを産んで、ますます家族が一体化したっつうか・・まぁ、しばらく暮らしてたらお前も同じように思う日が来るって、俺は思うけど?」

ソファーから立ちあがろうとした桜雅が、ふらつくのが見えた。
思わず声をあげそうになった私を、隣にいた雫が優しく制止する。

見ると、真琴が、桜雅の身体を抱き抱えるように支えていた。


「サンキュー、真琴。お前も、良い奴じゃん。腹がでかいから、一人で動くのもままならねぇんだよな。」

「繭のこと・・・困らせたいわけじゃない。」

独白するように、真琴は呟く。

「繭ちゃんも色んな男の妻やってるだけあって、そんな可愛い嫉妬くらいじゃ困らねぇと思うわ。」

ガシガシと真琴の頭を撫で回す桜雅は、優しくてかっこいい。
夫の色男ぶりに、見惚れてしまった。




「桜雅君って、絶対良いパパになるよね。」

私の隣で雫が、優しく笑う。

「それをいうなら、雫さんもね。」

「俺・・?そうかな・・・?」

「うん。もう良いパパに、なってます。」

ハルを抱き上げる雫の、優しい顔。
新しい家族に助言する、桜雅の頼もしさ。

彼のお腹の中に宿っている、新しい命。
もうすぐ生まれてくるその子がどんな顔をしているのか、どんな大人に育っていくのか、私は楽しみで仕方なかった。



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