80 / 182
『お仕置き』
しおりを挟むお風呂に直行するという譲と彗とは廊下で分かれ、自室に戻ろうと歩き出すと、前を歩いていた綾人の部屋に、突然引き込まれた。
「どうして俺が引き留めたのか、わかるよね?」
バタンと、扉が閉まり、壁ドンされる。
一瞬目があっただけで、怖い、と身構えるほどの迫力に、驚いた私は動けなかった。
綾人の視線がひどく冷たい。
彼が怒っているのだと、肌でビリビリと感じる。身動きできない。
「あ・・・あの、綾人さん・・・・?」
夫だというのに、彼のことを何も知らない。
こんな表情を見るのは初めてで、どうしたら良いかわからず慌てる。
「さっきのアレ、何?手、繋いでたよね。」
衝撃に、身体が大きく震えた。
テーブルの下で、譲と手を繋いでいたことに、彼は気付いていたのだ。
(綾人さん・・・気づいてたんだ・・・・どうしよう・・・っ)
「俺のこと、ナメてる?」
普段とはまるで別人のような、彼の視線。
責め立てるような口調。
冷や汗が出て、一気に身体が冷えていった。
「俺のこと、ナメてんの?それとも、挑発してるとか?」
私を睨みつけながら、彼はスーツのジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを緩める。
どうしよう・・そんな言葉しか、頭に浮かばなかった。
彼が怒っているのを、初めて見る。
いつもどれだけ優しく接してくれていたのかと、彼の冷たい視線を浴びながら、痛感した。
「夫の目の前で、夫以外の男に触れるって、どういうことかわかるよね?」
「ご・・ごめんなさい・・・」
「夫の俺を差し置いて、他の男に手を握らせるような、ふしだらな女だったんだ?」
「綾人さん・・・っ・・・」
至近距離に迫る彼の顔を、まともに見ることが出来ない。
王子様という言葉がぴったりなイケメン夫が、見知らぬドSな表情を浮かべて立っていた。
(ど・・どうしよう・・・綾人さん・・・怒った顔もかっこいい・・・・!)
まるで場違いな、呑気なセリフを吐きながら、私の頭はフリーズした。
「お前にはガッカリだよ。」
シュルリとネクタイを引き抜いた彼が、私をベッドに乱暴に押し倒した。
噛み付くような、激しいキス。
(お前呼び・・・か、かっこ良すぎ・・・・♡)
反省すべき状況なのに、目の前の夫のかっこよさに、見惚れてしまう。
「ごめんね、繭。俺、知らなかったよ。自分がこんなに嫉妬深い男だったなんて。」
声を荒げているわけではないのに、恐怖を感じる静かな声。
嘲るように、彼は続ける。
「めちゃくちゃに抱くから覚悟して。俺は繭の夫なんだから、いいよね?」
普段あまり本心を見せない綾人の、剥き出しの感情。
「たっぷりお仕置きしてあげるよ。」
引きちぎるようにブラウスの胸をはだけさせた彼の顔を見ながら、私は自分が興奮しているのを他人事のように傍観していた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
718
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる