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『大胆』

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街外れの、プラネタリウム。
出かけるついでだからと、夫のりつが送ってくれた。

「律さんは、嫌じゃないんでしょうか。俺は、まゆさんの夫じゃないのに、二人きりでプラネタリウムなんて・・・。」

正式な夫じゃないことを、ゆずるはいつも気にしている。
私と彼が二人で出かけること自体、他の夫たちがどう思うかと心配していた。

「律さんは、気にしてないと思いますよ。」

そう答えてみたものの、実際に彼がどう思っているのかなんて、私にはわからない。
夫の知らない一面を目にするたびに、彼らをもっと深く理解したいという気持ちが強くなる。


「俺、恋愛小説書いてみようと思っているんです。」

プラネタリウムが始まる直前、譲は私にそう耳打ちした。
彼の書く小説は、医療ものばかりだと聞いている。

「今の気持ちを・・・昇華しょうかしたくて。それと、あなたの夫になった時に、この・・・苦しいけど幸せな感情を、ちゃんと思い出せるように。」

小説家の彼が口にする言葉、一つ一つが胸に響く。

切なくて苦くて、それでも幸せだと想える感情を、覚えていたい。
そんな風に想える恋を、私は一度でも経験したことがあっただろうか。


宇宙で起きた、謎の大爆発。
私たちが今後、本物の星の光をこの目で見る機会が、あるのかどうかわからない。

それでも私は幸せなのだと、心の底から言える。
こんな世界にならなければ、失わずに済んだものもたくさんあるけれど、得られるはずもなかった幸せが今私の手の中にある。

「繭さん、好きです。俺があなたの夫になったら、また二人でここに来ましょう。」

彼は優しく指を絡めながら、甘い声で囁いた。

暗いから、彼が私に触れているのは、誰にも見えない。
この時間がもっと続けばいいのに、と名残惜しい気持ちになった。


♢♢♢


「あれ、繭と・・譲さん・・?」

プラネタリウムの帰り、もう少し二人で居たいからと寄った喫茶店で、夫の綾人あやとけいに出会した。
元スナイパーと、元スパイという、夫の中でも異色の職業についていた男性二人。

せっかくだから一緒にということになり、彗が綾人の隣に移って席をあけてくれた。


「デートですか?繭さんが遠出なんて、珍しいですね。」

彗が、探りを入れる風でもなく、自然な振る舞いでそう口にした。
元スパイという彼の経歴が、妙に私を緊張させる。

「プラネタリウム、行ってきたの?」

「え、あ・・はい。そうです。」

綾人の一言に、思わずぎくりとなる。

内緒で出かけているわけではない。
慶斗けいとにもりつにもきちんと告げて出かけているのだから、堂々としていれば良いのだけれど、夫二人を目の前にして妙に緊張してしまい、気まずかった。

「慶斗さんから、聞いたんですか?」

「そうだよ。妊娠初期だから外出は心配だって、早速過保護かほごになってたなぁ、あの人。」

「そうですね。僕もあんな慶斗さん、初めて見ました。」

このメンバーでゆっくり話すのは、初めてだ。
そんなことを思いながら、夫二人の会話に耳を傾けていると、隣に座っている譲がぎゅっと私の手を握ったので驚く。
プラネタリウムの時と同じように、彼は甘い仕草で指を絡めている。

(あ・・・綾人さんたちに見えたら・・・どうするの・・っ・・・!?)


テーブルの真下なので、向かい側に座る二人の夫たちからは見えない。
それでも、元スパイの夫を目の前に、もし気づかれてしまったら・・と私は気が気じゃなかった。

(譲さんって・・・意外と大胆・・・・っ・・・)

おっとりとした譲の意外な大胆さに、私はドキドキが止まらない。
彼のお腹に私の子が宿っているのだと思うと、鼓動はますます早くなっていった。



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