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『歯科医の夫』

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新しく夫になるという彼に会った瞬間、我が家に新しい風が吹く・・・そんな予感がした。

彼の名は、真琴まこと
世界的に有名な、スケボーの選手らしい。

「俺はアンタに興味ないから。結婚とか、そういうのどうでもいいし。」

開口一番、彼は全面的に私を否定し、遠ざけた。

(大和さん以来の衝撃・・・・拒否されるのって、やっぱり辛いなぁ・・・)

夫からの久々の塩対応に、落ち込む。


黒髪にゴールドのインナーカラー。
白地に何色ものビビットカラーを散りばめたような、細身のパーカーを着ている。
どこから見ても、今時のオシャレな若者だ。


「家族とか、そういうの面倒だから、俺のことは放っておいて。」

他人を寄せ付けようとしない斜に構えた態度、冷たい声色。
スケボーが大好きで、真琴のファンだといういつきは、彼が家族になるとわかり盛り上がっていたが、冷たい態度にショックを受けたようだった。

久々に舞い込んで来た、我が家の不安要素。

この時私は、想像さえしていなかった。
彼の態度が一変し、私にゾッコンになるという未来を。



♢♢♢


「真琴は、優秀な歯医者さんだから、まゆも診てもらったらいいよ。」

(スケボーの選手で、歯科医って・・・・どんな組み合わせ・・?!)

慶斗けいとの助言で、彼が開業している歯科医院で検診してもらうことになった。
どういう経緯で、スケボー選手と歯科医という肩書きを得るに至ったのだろうか。

彼に対しての興味が、一気に膨らんでいく。


スポーティーな印象が強い私服と、仕事着のギャップ。
緑色の医療着に身を包んだ彼は、普段より少し大人びて見えた。

(口腔内を見られるって・・・・なんだか恥ずかしいかも・・・・)


まだ手を繋いだことさえない、私に無関心な夫。
彼に口腔内をさらけ出すというのは、かなりハードルが高い。

「口、開けて。」

羞恥心を押し込めて、口を開ける。
目隠しにかけられたタオルの隙間から、医療用の薄いゴム手袋を嵌めた彼の指が、チラリと見えた。


「・・・・・・」

ーーー長い沈黙。

「・・・・?」


黙って口を開けて待つも、検診してくれているような動きはない。


「真琴君・・・?」

「エロすぎる・・・・」

「え・・・・・?」


「アンタの歯並び・・・・すげぇエロイ。」

消え入るような小さな声で、彼は微かにそう呟くと、確かめるように私の歯列を指でなぞる。


私は事態が飲み込めず、間抜けに口をぽかんと開けたまま、彼の次の言葉を待った。



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