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『元スパイ?』
しおりを挟むある日突然、新しい夫が我が家にやってきた。
通常であれば、国の役人を通じて夫候補の経歴書が届き、承認するかどうかはこちら側で決めることが出来る。
「はじめまして。僕は彗です。今日から、あなたの夫になります。」
結婚生活が始まってから、私は毎日イケメンに囲まれて生活している。
色男は見慣れているはずだが、彼と目があった瞬間、心臓を射抜かれたように固まってしまった。
褐色の肌、襟足が長い美しい金髪。
青い瞳は、吸い込まれてしまいそうなほどに大きく、綺麗な色彩を放っている。
スラリと長い手足に、しなやかな身のこなし。
微笑む彼の美しさに、私は我を忘れて見惚れてしまった。
♢♢♢
彗は元スパイで、現在も国家機密に関わる仕事をしているらしい。
元スナイパーで特殊部隊に所属していた綾人とは、顔見知りだという。
「すみません・・私、何も把握できていなくて・・・」
帰宅した慶斗が国に確認したところ、彗は本日付で私の夫となり、共に暮らし始める手筈になっていた。
「連絡もせずに来た、僕が悪いんです。繭さんを驚かせたくて。」
ーーー異国の王子様。
彼を見ると、そんな言葉が頭に浮かぶ。
高貴な人物だと一目でわかる身のこなし。
王冠を頭に乗せていたとしても、しっくりくるだろうと思った。
国籍は、どこなのだろう。
元スパイという経歴のせいか、書類にはあまり詳しい情報が記載されていなかった。
綾人の隣の空き部屋に、彼を案内する。
段差につまづいて、ふらりと傾いた私の身体を、彼は優しく受け止めてくれた。
しなやかな身のこなしに、惚れ惚れする。
彗は音もなく、いつの間にか距離を縮めているので、油断できない。
その度に私の心臓は、破裂してしまいそうだった。
「彗さんは、スパイ・・・なんですか・・・?」
「元、スパイです。今は、ただの役人ですので、安心してください。」
この笑顔で見つめられたら、どんなに無理な要求を突きつけられたとしても「はい!」と素直に応えてしまいそうだ。
「あなたの夫として、早くあなたの子を宿せるように、精進します。」
「こ・・こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
笑顔から、彼の本心を読み取ることは出来ない。
元スパイ。
ミステリアスな彼の雰囲気に、私の心拍数は上がりっぱなしだった。
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