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『赤ちゃんが、欲しい』

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夫のいずみはとても恥ずかしがり屋で、繊細せんさいな性格をしている。
肩まで伸びた黒髪のサイドを編み込んだヘアスタイルは、いかにも今時の若者というルックスだが、中身は見た目とは真逆。とてもウブだ。

最近ようやく肌を重ねるようになった彼と、明け方こっそりと逢引あいびきすることが増えた。

セックスを覚えたての彼は、若さ故に欲望のコントロールが出来ない。


まゆ・・・っ・・・繭・・・・・好き・・ッ・・・あ・・・あ・・・!!」

名前を呼び、好きだと必死に愛を告げる彼の興奮にあおられて、私の身体はあっさりと絶頂を迎える。
早朝だというのに何度も求め合い、私たちは時間を忘れて抱き合っていた。


「学校なんか行かないで、ずっと繭を抱いていたい・・・・」

射精したばかりで荒ぶる呼吸を抑えながら、赤い顔で彼が言う。

「泉君、私も。離れたくないよ・・・」

中学生の初恋みたいに、純粋な感情で繋がっている彼と私。
このベッドで彼に抱きしめられている瞬間は、二人だけの世界で愛し合っている。


「大好き・・泉君・・・」

彼の熱を奥深くで受け止め、すがるように彼の背中に手を回した。
二人の身体が離れる時、寂しくて仕方ないという気持ちになる。

「繭、俺・・・二人の赤ちゃんが欲しい。」

いつの間にか大人びた表情を浮かべながら、彼ははっきりとそう口にした。


♢♢♢


朝食を終えて、夫たちがそれぞれ学校や職場に出かける。
妊娠中のかえで桜雅おうがは、病院で定期検診を受けるため慶斗けいとと一緒に出掛けた。

朝食当番のりつが食器を洗っている横で、コーヒーを落とす。


律と二人きり。
たまにはゆっくり二人で食後のコーヒーでも飲もうという、彼の提案が嬉しかった。


「泉のこと、心配する必要なかったな。」

「え・・・?」

「最近よく泉の部屋で、一緒に過ごしてるだろ?」

律が愛のあふれる優しい微笑みを浮かべてこちらを見たので、目が合った瞬間に私の胸は一気に高鳴った。


「気付いてたんですね・・・」

お湯を注いでいる手を止めて、彼を見つめる。
食器洗いを終えた彼は、私に向き合って微笑んだ。

泉との、早朝の逢引。
行為の声が漏れていただろうか?と、心配と恥ずかしさが混ざり合う。


「初々しくて、二人の関係が何だかうらやましいよ。」

律がそんなことを口にするなんて、意外に思う。
彼はいつだって誰よりも大人で、他の夫たちに気を配ってくれているから。


「意外か?俺にも人並みの嫉妬心はあるぞ。」

私の顔を見て、すぐに心の内を読んだらしい。
律には、何でもお見通しだった。


私の頭にぽん、と彼の大きな手のひらが触れる。
何度も抱き合った仲だというのに、律に触れられると簡単に鼓動が乱れてしまう。
目を細めて、愛おしそうに見つめる彼の視線に、私は弱い。

彼の包容力は、ずば抜けている。
彼と一緒にいる時間は、私を心底安心させてくれるのだ。


「律さんって、お父さんみたい・・・」

「え?」

「優しくて、頼りになって、いつもみんなのことを見守ってくれていて、家族をとても大切にしてくれるから。」

「それは嬉しい言葉だな。」

ふっと優しく笑った彼が、私の額に口付ける。
彼は私のあごをくいっと指で持ち上げると、私の瞳を覗き込んだ。


「俺を・・・お父さんに、してくれるか?」

急に距離を縮めた彼が、私の腰に手を回し、甘く囁く。


「え・・っ・・・」

「赤ちゃん、作ろうか。」

これから、と耳打ちされて、一気に体が熱くなる。
彼の息がふっと、私の耳元にかかった。


「り・・・律さん・・っ・・・」

「繭との赤ちゃんが、欲しい。」


もう一度、彼が願いを口にする。
コーヒーを落としている最中だということをすっかり忘れて、私は彼の甘い唇を受け入れた。


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