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『大和との初夜』

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大和やまととの、新婚初夜。

彼の真剣な瞳に見つめられ、ドキドキと胸が高鳴る。

「好きでお前なんかと結婚したわけじゃない。」

愛の言葉を待っている私の耳に、想像とは真逆のセリフが届いたので驚いた。



「大体お前みたいな女は全然タイプじゃないし、今のところ子どもが欲しいとは微塵みじんも思っていない。」

こちらの反応も待たず言葉を続ける彼に、開いた口が塞がらない。
できるなら、もう少しオブラートに包んで言って欲しかった。

これが新婚初夜に妻に伝える言葉だろうか、と耳を疑う。


突然の告白に衝撃を受けた私は、しばらくの間ポカンと口を開けたまま沈黙していた。


「あ、え~っと・・・」

耀亮ようすけ桜雅おうがが聞いていたらブチギレるだろうな、と他人事のように苦笑する。

大和の部屋はひどく殺風景で、寂しい気持ちになった。
筋トレのための器具と、水泳に関係した書籍が本棚に並んでいる以外は、ほとんど何も置いていない。


会ったこともない男女が、一生を共に過ごす夫婦として同じ家で暮らす。
その上、妻は私一人、夫は多数。

こんなめちゃくちゃな制度で婚姻しておきながら、今まで大きな問題なく夫たちに愛されてきたことが奇跡なのだ。


私の見た目が好みのタイプではなかったり、一妻多夫制に不満があったり、男性が妊娠出産を担わなければならないことに戸惑ったり、夫たちにはそれぞれ様々な想いがあるだろう。

それを胸に抱えながら、不満一つ口にせず、私に接してくれる優しさ。

当たり前のことではないのだと、今更思い知る。



「私たちは夫婦になったばかりですし・・お互いに愛情や思いやりを持って信頼関係を築いてからでないと・・・こういう行為はまだ早いかもしれませんね。」


大和は私の夫だけれど、彼のことを全然知らない。
悪い人ではないと思いたいけれど、彼の物言いにはいちいちとげがある。

お互いを知り、歩み寄る努力が必要だということは明白だった。


「何だよ、それ。」

私の言葉に、彼は明らかに気分を害されたという顔をする。


しずくとはヤったんだろ?俺はダメってどういうことだよ?」

大和と雫の関係にも、やはり一筋縄ではいかない確執があるようだった。


大和は両腕を上げて、パッとTシャツを脱ぎ捨てる。
たくましい肉体が露わになって、思わずごくりと息を飲んだ。

引き締まった筋肉、逆三角形の美しい身体。
精悍な顔立ち、強い意志を感じさせる視線。

私とは全く違う生き物なのだと、恐怖に近い感情を抱く。
彼の高圧的な態度。低くて太い声。

迫ってくるその顔は、まさにイケメンとしか言えない整った美しいパーツで出来ている。


(みんなが優し過ぎるから、冷たくされるのはある意味新鮮かも・・・・♡偉そうで強気な、毒の強い俺様系イケメン・・・♡)

イケメンなら何でも許せてしまう、自分のポジティブさに驚く。
威圧的な彼の態度にときめきながらも、信頼を育てなければと、慌てて首を横に振った。


「もう少しお互いをよく知る時間を持ちませんか。それからにしましょう・・・?」

「長いこと女を抱いてないから、いい加減限界なんだよ。」

彼は深いため息を吐き出しながら、私の肩に手をかけた。


「黙って抱かせろよ。」

ベッドに押し倒されて、両手首を男の強い力で抑え込まれる。
大和の体重が身体にのしかかってきて、ふっと恐怖心が込み上げてきた。

「や、大和さん・・・待って。」

私の夫たちは、紳士的な男性ばかりだ。

この家に来たころは、私はまだ男の身体を知らなかった。
優しく身体を開いてくれた、夫たちの愛情。

そんなことにさえ、強引な扱いを受けないと気付けないのか。
自分が情けなくてたまらなかった。

「焦らすつもりか?」

私の身体のラインを確かめるように、彼の手が動く。

「もう待てねぇよ。」

耳元で押し殺すような、低い声。
太ももを割って、彼の身体が脚の間に入り込んでくる。

強引な、男の力。

「大和さん・・・!やだ・・・って、言ってるのに・・・!」

両手を伸ばして、彼の身体を押し返す。

怖いけれど、大和さんをもっと知りたい。
知りたいけれど、荒々しく乱暴に振る舞う彼を受け入れるのは少し怖い。
複雑な気持ちが、頭を混乱させる。

こんな感情は初めてだった。
私は目の前にいる夫のことを、まだ何一つ知らないのだ。

ベッドで愛を交わす前に、知るべきことがたくさんあった。


「大和さん・・婚姻について、契約内容を確認してもいいですか・・・?」

私の口から出たのは、間抜けな言葉だった。
法廷ドラマで見た、女性弁護士をぼんやりと思い出す。

間の抜けたことを言いながら、真剣に彼の目を見ると、大和はハッとしたように、手の力を緩めた。

「あなたとの婚姻関係について・・少し考えさせていただきます。」

信じられないという表情で私を見下ろす大和の視線に耐えきれず、私はそっと目を逸らした。




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