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『プロポーズ』
しおりを挟む「今まで誰にも話せなかったこと、繭さんには話しますね。」
雫は一つ一つ、ゆっくりと言葉を選ぶように話し始める。
「俺は性分的に、人の話を聞くのは好きなんですけど、自分のことを話すのは苦手で・・・。」
なんとなく、そうなのかなと感じていた。
彼は夫たちの話を聞くばかりで、自分の話をしているところを見たことがない。
「俺は・・・ピアノを弾くのが怖くて・・ピアニストを辞めたことをずっと後悔してるんです。自分の可能性を、無かったことにしてしまったなって・・・。」
彼は、元ピアニストだ。
生まれてすぐ里子に出され、里親の元で育ったのだと資料にあった。
子どもに恵まれなかったピアニストの両親に引き取られ、幸せな家庭環境だったと書いてあったけれど・・・もしかしたら彼はものすごいプレッシャーの中、ピアノの練習に励んでいたのかもしれない。
「後悔って・・・悪いことじゃないと思います。」
思わず、口に出ていた。
「え・・・?」
彼は目を見開いて、私を見る。
「本当はピアノが大好きなんだって知るための試練だったんじゃないかなって。」
何も知らないくせに。
そう思われても構わないと思った。
彼のことを、全力で肯定して守りたい。
そんな風に思っている自分自身に、私は驚いていた。
「そんな風に思ったことは・・・一度もなかったな。」
彼の視線は、過去を見ているように遠い。
「私、雫さんが弾くピアノ・・いつか聴いてみたいです。きっと、家族のみんなもそう言うと思います。」
私はいつの間にか、必死で訴えかけていた。
予期せぬ爆発で色々なものを失ったけれど、私には彼らがいる。
夫たちの存在があるから、今の私は未来を信じて進もうと思えていた。
雫にとっても、きっと私たち家族が心の支えになる。
これまでの色々な感情が一気に溢れ出す。
目からは、涙がこぼれていた。
「自分の妻に、早速泣き言なんて、情けない夫だよね。」
雫の綺麗な指が、私の涙を拭う。
この美しい指が紡ぎ出す音楽を、いつか聴いてみたいと思った。
「俺は一生、君のそばで君を守るから、ずっと・・・俺のそばに居てくれる?」
まるで、プロポーズみたいだ。
「はい、約束します。」
結婚とプロポーズが逆だけれど、私たちはきちんと夫婦になれた気がしていた。
「俺は・・その・・女性を抱くのは初めてで・・・・」
ぎこちなく苦笑する彼に、微笑み返す。
彼の初めての相手になれることが、嬉しかった。
線が細い、彼の白い肌が露わになる。
いつも冷静で中性的な印象の彼が、男に変わる瞬間を見た。
「すごい・・・溢れてる・・・」
(雫さんに見られるの・・・恥ずかしい・・・)
ねだるように腰を揺らすと、彼が息を荒げ、熱い瞳で私を見る。
クチュッと入り込んできた彼は、うぅっと快感に小さく喘ぎながら、腰を奥までゆっくり進めた。
「繭さんの中・・っ・・熱い・・・」
いつも穏やかな彼の表情が、下半身の快楽に苦しそうに歪んでいるのを見て、私の興奮は一気に高まる。
「・・っ・・うぅ・・・っ・・・あ・・」
彼は腰をゆっくり引いたり、深く打ち込んだりを繰り返しながら、快感に喘ぐ。
苦しそうな彼の喘ぎ声に、私は我慢できなかった。
「うぅ・・・っ・・・繭・・・繭・・・ッ・・・」
私の奥深くに、グングングンと荒々しく腰を打ち付ける雫の姿。
いつもの彼とのギャップに興奮を煽られ、奥を擦られる気持ち良さに、私は上り詰めた。
「あ・・・っ雫・・・ッ・・・イ・・・イク・・・んんんッッ・・!!!」
ビクビクと下半身が痙攣して、私がイクのと同時に、彼も膣の奥深くに射精する。
「あ・・・あ・・・繭・・・イ・・ク・・・射精る・・・!!」
♢♢♢
「話を聞いてもらうって、大事だね。」
「うん。私もそう思いました。」
朝、雫と並んで歯磨きをしながら、束の間の夫婦の時間を楽しむ。
「あ、繭、これ忘れるよ。」
髪留めを忘れないようにと、彼が優しく声をかけてくれる。
そんな些細な事でもトキメキをくれるイケメンの夫に、にやけてしまう。
「うわ~すげぇリアル。雫さんが、繭ちゃんのこと呼び捨て・・・。」
「雫と寝たの?繭。」
同じく洗面台で歯を磨いていた、桜雅と比奈多が話している声が聞こえてきて、私は赤面してしまった。
いつの間にか「繭さん」から「繭」に変わった雫の変化。私ももちろん気付いていた。
夫婦の会話はもちろん大事だけれど、セックスも絆を深めるためにとても重要だと改めて感じる。
私は誰にも見えないように、こっそり雫の手をぎゅっと握った。
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