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『純真無垢』

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先日、耀亮ようすけと私の腕枕うでまくら姿をうっかり目撃して以来、いずみはしばらく放心状態で生活していた。
彼はまだ10代。
自分の夫だなんて信じられないほどに、彼は純真無垢じゅんしんむくな男性だ。


最年少のいつきと、とても仲が良い。

泉の方が一つ年上だけれど、彼の方がウブで恥ずかしがり屋だった。
樹が私との初夜について彼に話したら、顔を真っ赤にして部屋の外へ出て行き一週間口を聞いてくれなかったそうだ。

妻としてどう接するべきか、この一週間悩みに悩んだ。


今日は泉との初夜。
無理に事を先へ進めようとは思っていない。

ゆっくりと手順を踏んで、少しずつ距離を縮めていこうと思っていた。



「え~っと・・・泉君・・・?」

「な・・・何・・・っ・・・?!」

ベッドの端っこでこぶしを握り締めている泉に声をかけると、明らかに怯えた様子の声が返ってきた。
私に、とって食われるとでも思っているような態度だ。


彼の部屋は、いかにも10代男性の部屋という印象で、物が多かった。
ファッションに興味があるオシャレな子なので、帽子がたくさん壁にかけられていたり、スケボーが立てかけてあったりする。


ゆっくり近付いて、鎖骨まで長さのある綺麗な黒髪に触れると、彼がびくりと大きく肩を震わせた。


「ま・・まゆさん、待って・・・俺、み、未経験で・・・・まだ心の準備が・・出来てねぇって言うか・・・・」

顔を真っ赤にして、うつむく泉。


(あ~、尊い・・・♡泉君、可愛すぎる・・・♡)


「大丈夫だよ。無理にしなきゃいけないことじゃないから、ゆっくり私たちのペースで近付いていこう?」

ファーストステップとして、今夜は彼と手を繋いで寝ることにした。




「繭さん、ごめん・・・俺・・・上手く出来るか、、わかんないし・・・」

繋いだ手が汗ばむくらいに、彼はまだ緊張している。


「私は泉君と手を繋いで寝られるだけで、嬉しいし幸せだよ。」

私の手を握る彼の指先に、ぎゅっと力がこもった。



「泉君は、子ども欲しい?樹君と前に話してたよね。」

「こ、子どもは早く欲しいけど・・妊娠、出産って、俺がちゃんと出来んのかって、少し怖い・・・。」


女性が産むのが当たり前だった、以前の世界を思い出す。
私も数年前に、同じようなことを想像して、怖いと思ったことがあった。


「怖いよね。私も、そう思ってたよ。自分にそんなこと本当に出来るのかなって。」

「繭さんも・・?」

「今の世界のことが、まだ不思議で信じられない。私もいつか子どもを産むってよく想像していたけど、痛そうだし親になる自信もなくて怖いって思ってたんだ。結婚の予定は全然なかったんだけど。」

あはは、と私が笑うと、緊張がほぐれたのか、彼がふっと微笑むのがわかった。


「繭さんでも、そんな風に思ってたんだ。」

泉とお互いのことを深く話すのは、初めてだった。
学校のこと、家族のこと、飼っていた犬の話。

色々なことを話して、手を繋いで眠りに落ちた。



♢♢♢


「お~泉、おはよ。お前、初夜どうだった?」

「おはよう。泉くん。繭さん。」

洗面所でばったり会った桜雅おうがが口を開いた瞬間に、その後ろで歯ブラシを手に取っていたしずくが言葉をかぶせてきた。


しずくは、場の空気を読む天才で、いつもナイスフォローをくれる人物だった。
初夜を迎えるにあたっての不安を、泉は彼に打ち明けていたらしい。

元ピアニストの彼は、見た目も繊細で中性的な印象が強く、美しい顔立ちをしている。
相談係として、年上年下関係なく、皆んなから助言を求められるしっかり者。
寝起きでも、黒のサラサラヘアは完璧なツヤを放っている。


「え?なんだよ、雫さん。」
割り込まれた桜雅が、不満そうに口を開く。

「昨日まで提出だった日程表まだ出てないから、桜雅君の当番は勝手に決めるって慶斗けいとさんが言ってたよ。リビングで、数分前に。」

「げ!マジで。忘れてたわ。」
バタバタと慌てて立ち去った桜雅と入れ替わりに、樹が入ってくる。

「な~泉!今日、学校帰りラーメン食いに行かね?」
樹とじゃれあう泉は、やはりまだ少年のような幼い顔をしていた。



「雫さん、ありがとうございます。」
フォローしてもらったお礼を小声で伝える。彼はキラキラ輝く笑顔で私を見た。

(ね・・・寝起きとは思えん・・・!美しい・・・!)


私の夫は、全員イケメン。
すっぴんの自分の顔が、ひどく情けなく思える。

私は鏡を直視することができないまま、無心で歯を磨いた。


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