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不意打ち

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何を隠そう俺は『年齢=恋人いない歴』の男だ。
セフレとして櫂莉かいりさんとエッチしているので、男に抱かれたことはあるけれど、未だ童貞。
大好きな櫂莉さんは篠崎しのざき あおいという想い人に夢中で、俺の出る幕はない。

俺の恋は、いつだって八方塞がり状態だった。


「よお、お前ここのコーヒーいつも飲んでんな。」

昼食後、食堂の自販機コーナーでコーヒーを飲んでいると、櫂莉さんと遭遇する。

「櫂莉さん!お疲れ様です。」

(なんたるラッキー?!しかも俺がいつもここのコーヒー飲んでるって知っててくれたのか・・?!いよいよ俺に運が向いてきたかも・・・・!!)

櫂莉さんと偶然会えただけで、俺のテンションは爆上がり。
彼が恋人になってくれたら、俺はきっと365日寝ないで働ける。

「お前さ、週末時間ある?」

「え?あ、あります!!」

即答してしまうのが、セフレの悲しいさがだ。
たまには断ってみたり、思わせぶりな態度をとってみたり、恋愛の駆け引きなるものを仕掛けたいが、セフレにそんな余裕はない。

「買い物付き合って欲しいんだけど。」

「何買うんですか?良いですよ。」

嬉しくて顔がニヤけてしまう。
俺は本当に櫂莉さんのことが好きで、彼のためならきっとどんな難しいことにだって挑戦できる。

「蒼さんの誕生日プレゼント。」

好きな人の言葉はすごい。
俺を全知全能にだってできるし、地獄の釜の底に送り込むことだって容易たやすい。

「篠崎先生の・・・プレゼント・・・・」

わかりましたと、言葉にしかけた時、廊下を通るりんの姿が見えた。
彼もこちらに気付いて、手を振ってくる。

壮馬そうま、今日一緒に帰ろ。」

カフェスペースの入り口から顔を覗かせて、凛が首を傾げながらそう言った。
その仕草や言い方がぶりっ子でめちゃくちゃ可愛くて、俺の顔は不覚にも赤くなる。

完全な不意打ちだ。

「え?あ・・・おう。」

「あとでね!」

手を振りながら廊下を去っていく凛の可愛さに、俺は呆然と見とれていた。
食堂にいた他の男性医師たちも、皆凛に注目している。

(凛のやつほんと顔だけはめちゃくちゃ可愛いよな・・・つか、女の子にしか見えね~!!)


「あ・・・週末の件、時間空けときます。」

隣に櫂莉さんが座っていることを一瞬忘れてしまうほど、凛の可愛さに目を奪われていた自分に驚く。
慌てて返事をすると、真顔で俺を見つめている櫂莉さんと目が合った。

「おう。空けとけよ。部屋に迎えにいく。」

(櫂莉さん、なんか怒ってる・・・?!え・・・?!)

自分の立場が弱いと、相手の喜怒哀楽に敏感にならざるを得ない。

万年セフレ状態で、アイデンティティも自己肯定感も何もかも置き去りにしてきた俺にとって、櫂莉さんの機嫌を伺うことはもはやルーティン化しつつある。

篠崎先生の誕プレを買うという目的はさておき、一緒に買い物に行ける幸運に俺は心の中で小さくガッツポーズを決めた。
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