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『因縁』
しおりを挟む取調室の扉を開けると、馨君が立っていた。
「え?なんでここにいるの・・・!?」
驚く私をよそに、神矢さんは想定内と言わんばかりの余裕の態度で、彼と向き合っている。
「やぁ馨君、君か。こんなところで会うとはな。随分久しぶりじゃないか?」
「その呼び方やめてください。あなたに名前呼びされるほど、親しくないので。」
「取調室に忍び込んで俺を待っていた割には、つれない態度だな。」
「誰がお前を待ってたって?僕が待っていたのは、可愛い恋人の繭さんだけです。」
私の恋人馨君と、元カレ神矢さんは、いつもこんな調子だった。
過去に因縁があるらしい。
「葉月君、君は俺のファンか何かか?毎回俺の前に現れて困らせることばかりする上に、今度はどうして俺の女をつけ回しているんだ?」
「はぁ?俺の女って・・・誰のこと言ってるんです?まさか繭さんのことじゃないですよね?もしそうであれば、即刻殺します。」
「はは、相変わらず君は物騒な物言いをするな。」
2人揃うと、彼らは途端に饒舌になる。
本当は仲良しじゃん?と思うほど、彼らの会話はテンポよく進み、ヒートアップしていった。
お互いを「特別な存在」として意識しているようにしか見えない。
馨君は相手が神矢さんとなると、いつもの余裕の態度が崩れ感情がむき出しになる。
彼に対してだけはひどく攻撃的だし、普段は見せないイラついた態度や怒りの表情を露わにするのだった。
神矢さんも馨君が相手だと、妙に意地悪な言い回しをしたり、彼の感情を煽ろうとする節がある。
「実は今回、俺から君たちへ提案があるんだ。」
「図々しい。無能な警察の提案を、素直に聞くと思うのか?」
「これは繭の安全のためでもあるから、聞いてほしい。」
「僕の恋人を勝手に呼び捨てにするのはやめろ。本気で虫唾が走る。」
言うと同時に飛び出た馨君のパンチを、神矢さんは涼しい顔で受け止めた。
「3人で、一緒に暮らさないか?」
「「・・・はぁ?」」
馨君と私の声が、ピッタリ重なる。
硬派で真面目な元カレの提案は、想定外の内容だった。
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