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♧『想い人』(箔凪 華南)

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~~~~登場人物~~~~


♧箔凪 華南(はくなぎ かなん) 32歳

黒髪、襟足が長い。細く縁のないメガネをかけている。美しく知的な顔立ち。
女性のような華奢な身体だが長身。小顔。
箔凪家の広報担当。ルックスの美しさから、男女ともにファンが多い。
「華道会の貴公子」と名高く、茶道雑誌に連載を持ち、熱狂的なファンも。
人と馴れ合わず、冷たい。性格は可愛くない。素直になれず肩肘を張って生きている。
腹違いの兄である侑亮にずっと片思いをしている。


♧南谷 侑亮(みなみや ゆうすけ)36歳

箔凪 宗華が一度目の結婚でもうけた第一子。
茶髪、学生時代にアメフトをやっていた過去があり、がっしりとした体型。長身。
妹と婚約者を同時期に亡くしており、それから人が変わってしまった。
大切な人をなくしたくない一心で、もう誰も愛さないと決めている。
海外で働いていたが、数年前日本に戻り予備校で英語講師をしている。
仕事で海外進出を考えている龍牙に英語を教えている。

♧南谷 美蘭(みなみや みらん) 生きていれば33歳(享年24)

病気で亡くなった、侑亮の妹。


~~~~~~~~~~~


♧『想い人』(箔凪 華南)

私には、幼い頃からずっと心を寄せている人がいる。

腹違いの兄、南谷みなみや 侑亮ゆうすけ
その特殊な関係性から、気持ちを打ち明けられないまま大人になってしまった。


うじうじしている私を見かねて、従兄弟の龍牙りゅうがが侑亮と会えるようにセッティングしてくれた。
久々に再会した想い人に、胸が高鳴る。

私の父、箔凪宗華と前妻との子である侑亮。面倒見が良く、優しかったこの男は、ある日を境に変わってしまった。

「日本に戻って来ているなら、連絡くらいしてくれよ。」

「お前に知らせる義理なんかないだろ。」

結婚間近の婚約者と妹を同時期に失い、彼は人が変わってしまったのだ。

とりあえず部屋へ入れてもらえたものの、彼の態度は歓迎とは程遠く心が折れそうになる。
人一倍プライドが高く、他人に遜ることが苦手な私が、なりふり構わず懇願してしまうほど、彼は特別な存在だった。

「私はまたお前と・・・昔みたいに色々話したい。お前がいなくて・・・ずっと寂しかった。」

最大限の勇気を振り絞って、率直な言葉を吐き出す。

冷めた瞳で私を見下ろす彼の整った顔。
変わってしまった彼でさえ、全てをありのまま受け入れる覚悟が私にはある。

「お前のそういうところが、面倒くさくて嫌いなんだよ。」

彼の中にある明確な敵意にさえ、愛おしいと感じてしまう私は重症だ。
手を伸ばせば触れられる距離に彼がいてくれるだけで、十分だった。

♢♢♢

「また来たのか、お前。」

呆れたような口調の中に、今までとは違う感情が見て取れる。
何度も彼の部屋に足を運び、部屋の前で何時間だって彼の帰りを待った。

自分の必死さを恥じる気持ちもあるが、なりふり構っていられない。

「ろくなもの食べてないと思って、来てやったんだ。」

倒れられたら困るからな、とスーパーの袋をかざすと、侑亮は勝手にしろと小さく呟いた。

海外で暮らしていた彼とは、何年も音信不通だった。顔を見て言葉を交わせるだけで、幸せすぎて涙が出そうになる。

ただ話せるだけで、こんなにも幸せなのに。
もっと欲しいと心がどんどん欲張りになっていくのを、止められない。


食べ終わった食器をキッチンに下げる侑亮の後ろ姿を見ていたら、抑えきれず抱きついていた。
驚いたのか何も言わず動かない彼の背中に、縋り付く。

「侑亮・・・私は・・・」

お前が好きだ。その一言が、出てこなかった。

悲しい目をしたこの男が、どうしようもなく好きなのだ。
心の中ではいくらでも彼に愛を語れるのに、いざ彼を目の前にすると怖くて立ち竦んでしまう自分が情けない。

「だから嫌なんだよ、お前は。」

私の手をほどき面倒くせぇ、と呆れたように吐き捨てる彼を縋るように見つめると、思いがけず真剣な視線が返ってきて驚いた。

「俺のテリトリーに入ってくるな。」

警告と思われるその言葉に、私は大きく首を振る。

「嫌だ。絶対に入り込んでやる・・・!」

どうしても彼が欲しい。彼のそばにいたい。
どんなに拒絶されようとも、離れるなど出来るはずがない。

「そんなに俺に・・痛めつけられたいか?」

怒りを含んだ侑亮の瞳を、逃げずにまっすぐ受け止めた。

「・・・覚悟は出来てるんだろうな?」

彼の低い声が、警告する。
ぞくりと背筋が震えるような、ドスのきいた低い声。

「当たり前だ。覚悟なんか、10年前からずっと出来てる。」

ちっと舌打ちした彼に押し倒されたのだと分かったのは、組み敷かれ唇を奪われた瞬間だった。






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