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緊急事態
しおりを挟むエイダがアーサーを訪ねてきた理由は、「王子を助けて欲しいから」という、まさにメルヘンの世界にふさわしい内容だった。
「緊急事態なんっすよ!!」
エイダは突然思い出したようにそう叫ぶと、緊迫感がまるでない表情で私を見た。
「お姫様、王子様を助けるために、俺と一緒に来て欲しいっす!」
(お・・・王子・・・・?!王子って・・・私の王子様・・?!)
マイペースというか、緊張感が無いというか。
「緊急事態」とやらを忘れて話し込んでいた彼が、宿題を忘れた男子生徒のように急に騒ぎ出したが、やはり緊迫した空気にはならない。
ヴィラン側のエイダが、アーサーと友好的に話す様を、ぼーっと見つめていた私は、まるで事態が飲み込めずにあたふたしている。
深淵の森で暮らす彼らヴィランの王子が、熱病を発症したらしい。
ヴィランの王子と聞いて真っ先に一目惚れの相手、ヴァイスの顔が浮かんだ私は、アダムという人物だと説明を受け、がっかりした気持ちが拭えなかった。
「それにしても、アダムが熱病にかかるなんて、最悪の事態だな。」
アーサーが眉間に皺をよせ、深刻な顔でため息を吐き出す。
「王子は全然言うこと聞いてくれないから、俺たちも手を焼いてるっすよ。」
わけがわからないまま、私はエイダという無邪気イケメンと共に、ヴィランの巣窟へ赴くことになる。
「そんな不安そうな顔しないでよ?君のことは、俺が絶対守るから大丈夫。」
前髪に隠れている、エイダの片目がチラリと見えた。
ヴィランにはとても見えない、無邪気な笑顔。エクボと八重歯にドキッとする。
警戒心を与えず、人の懐に入り込んでくる不思議な男だ。
可愛い笑顔に、絆される。
差し出されたエイダの手を握ろうと手を伸ばすと、アーサーが間に入ってそれを阻止した。
「エイダ。俺の許可なく彼女に触れるのは、禁止する。」
(え・・・それって、嫉妬・・・・!?♡)
イケメンの嫉妬心に狂喜乱舞している私の顔は、見れたものじゃないだろう。
牽制するようにエイダを睨むアーサーに、私は心底ときめいてしまった。
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