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押しに弱い

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「俺の恋人になって欲しい。」

直球で投げかけられる浅葱あさぎの言葉に、不覚にも心底ときめいてしまった。

御影みかげに好きだと言われたけれど、恋人になって欲しいという明確な言葉は出ていない。
それが一緒に暮らしている弟を気遣ってのことだと自分に言い聞かせても、やはりどこか寂しさを感じてしまうのが女の性なのだと思う。

婚約者にならないかという彼の言葉は、結局本気なのか冗談なのかわからなかった。
御影の冗談を本気にして、後で傷付くのが怖い。

大人同士の恋愛は、ただ好きというだけでは難しい部分もある。
そうとわかっていても、ただ真っ直ぐに「好き」だから「恋人になって欲しい」という意思表示をしてくれる相手を、女は求めているのかもしれない。

ただお前が欲しいのだと熱烈に求められる快感に、身を沈めてみたかった。


「お前が御影を好きでも関係ねぇよ。俺を選んで良かったって、思わせてみせる。」

いつの間にこれほど男らしくなったのだろう。
浅葱の目には、迷いが無い。

「浅葱・・・」

大人なのに自分のことさえ決められない私の目には、彼が眩しすぎる。


「好きなんだ。俺を選べよ。絶対、後悔させない。」

畳み掛けるようにぶつけられた彼の言葉。
すぐ赤くなるウブで可愛い浅葱は、どこに行ってしまったのか。


「私のどこが好きなわけ・・?」

若くてキラキラしていて、真っ直ぐな浅葱。
私を好きになる理由は、どこにも見当たらない。


「・・・全部?お前といてムカつくこともあるけど、そこもひっくるめて全部気になる。全部好き。」

「浅葱、」

「小言言うのは無しな。年下だからとか思ってんなら、そんなの理由にならねぇから。」

彼の熱意に圧倒されながら、私は言葉を飲み込んだ。


「俺を振るんだったら、俺だからダメだっていう理由をちゃんと言ってくれよ。」


(浅葱を振る理由・・・・?そんなのあるわけないじゃん・・・こんなにときめいちゃってるのに・・・!!)



「・・・なぁ、その沈黙ってどういう意味?」

彼の顔がグッと近づいて、唇が触れ合う手前でピタリと止まる。


「脈アリって、思って良い?」

「浅葱、あのね、」


「あと一押しすれば・・俺のもんになってくれる?」

私が押しに弱いことを、彼は見抜いているのだろうか。


「俺の、恋人になってください。」

彼は至近距離で私の目をしっかりと見つめながら、そう言った。


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