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music.12 嫉妬(SIDE 陸)
しおりを挟む三幸の機嫌が最高に悪い。
スタジオから一緒に帰ろうと車に乗せてくれたのはいいけれど、いつも以上に乱暴な彼の運転に助手席の俺は生きた心地がしなかった。
「腹減ったな、なんか作ろうか?」
何食べたい?と彼の機嫌を取ろうとして、早速失敗した。
「いらねぇよ。」
俺の提案を一蹴すると、彼は荷物をぶん投げてソファーに寝転んだ。
三幸は蓮寺さんと仲が悪いらしい。
社長に聞くまでもなく、二人を見ていたらわかったけれど、同じバンドのメンバーでもそういうことってあるんだな、と不思議に思った。
俺らのバンドはみんな、お互いのことが好きで仲が良いから。
それってすごく恵まれていることなのかもしれない。
「お前、蓮寺にベラベラ何でもかんでも話すんじゃねぇよ。」
チッと舌打ちが聞こえたかと思うと、彼は上半身を起こしてソファー越しにこちらを振り返った。
「何でもかんでもなんて、話してねぇし。」
聞いてなかったくせに文句をつけてくる彼の態度に腹が立って言い返す。
「嬉しそうにしっぽ振って話してたじゃねぇかよ。」
「はぁ?!尻尾なんて振ってねぇし。」
「い~や、振ってたね。現にあいつもワンコ君とか言ってただろうが。」
お互いにどんどんヒートアップして声が大きくなっていく。
三幸の八つ当たりとも取れる物言いに、俺は引くに引けなかった。
ソファーまでつかつかと歩いていくと、彼の隣にどすんと腰掛ける。
「振ってねぇ!!」
三幸を睨みつけて言うと、彼が俺の顎を手で掴んで黙らせた。
まるで子どもの喧嘩だ。
彼がガシッと俺の手首を掴む。
「俺の犬のくせして、他の男に気安く触らせてんじゃねぇよ!」
一段と大きな声量で吐き出された彼の言葉に、俺は自分の耳を疑った。
「・・・え・・・」
それって・・・
他の男に気安く触らせるなって・・・
期待してしまう自分がいる。
やきもち・・?
「俺・・・何言って・・・」
俺よりも、三幸が一番驚いた顔をしていた。
綺麗な長い指で、口元を覆って俺を見ている。
「それって、やきもち・・・?」
嬉しい。
「な・・そんなわけねぇだろ。」
彼の視線が泳ぐ。
自分で口にした言葉の意味を、考え込んでいるようだった。
「やきもちじゃねぇの・・・?」
彼に触れたい。
そう思った。
初めての感情。
「ねぇ、三幸。」
こっち見て。
ちゃんと、俺を見てよ。
ドキドキとうるさい鼓動に胸が苦しい。
この苦しさの理由を、俺はどうしても知りたかった。
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