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music.11 蓮寺(SIDE 三幸)
しおりを挟む陸が熱っぽい瞳で物欲しそうにじっと見つめるものだから、変な気分になってしまった。
あいつのあんな顔、初めて見た。
ガキのくせに一丁前に。
そんな風にはぐらかそうとしたけれど、思いがけずかき乱された自分の心を落ち着けるのに時間がかかった。
いつもは犬みたいに俺の周りにまとわりついて、コロコロ表情が変わって、子どもをあやしているみたいな感覚だったのに。
頬を赤く染めて潤んだ目で俺を見上げてきたあいつの顔は、まるで別人みたいだった。
朝から大雨でうんざりする。
こんな日は家にこもって作曲でもしていたい。
「三幸君、今日蓮寺君が来てるよ。」
PV撮影の打ち合わせのために事務所に来た途端、社長がスタジオを指差した。
雨は嫌いだ。
ろくなことが起きない。
蓮寺は俺と同じバンドのベースで、活動を休止している今は他のバンドで活躍している。
掛け持ちで音楽学校の講師をしており、若手の教育に力を入れている。
嫌な予感がした。
あいつとは馬が合わない。
スタジオの扉を開けると、蓮寺が陸の肩を抱いて親密そうに話しているのが目に入った。
うちの犬は、嬉しそうに目をキラキラさせて彼に尻尾を振っている。
あぁ、苛つく。
「蓮寺。お前、何しにきたんだよ。」
大柄な身体、よく鍛え上げられた筋肉。
スパイラルパーマがよく似合う、彫りの深い顔立ち。
昔は生やしていなかった口の周りの髭が、ワイルドな彼の雰囲気をより強く印象付けていた。
「よぉ、三幸。元気だったか?」
俺を見た彼が、逞しい腕を上げて嬉しそうに笑った。
男が惚れこむタイプの男らしい性格。
俺はこいつが苦手なんだ。
関わりたくない。
「お前、ワンコ君と一緒に住んでるんだって?」
どうしてこいつはいつもいつも、俺の感情を逆撫するんだ。
「だったらなんだよ。」
「お前がなぁ。へぇ。」
品定めするように俺を見る蓮寺の視線に、俺の苛つきは急激に膨れ上がった。
「んだよ、お前。何が言いたい。」
「お前も変わったなぁ、と思ってな。」
ガシガシと大きな分厚い手のひらで頭を撫でられて、俺の怒りは爆発した。
「触るんじゃねぇ、クソ野郎!」
思い切り睨みつけても、蓮寺はまるで動揺することなくニコニコと笑顔を浮かべたまま俺を見ていた。
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