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music.10 自覚 (SIDE 陸)
しおりを挟む碧が変なこと言うから、家に帰って三幸と二人きりになると妙に緊張してしまう。
「あ?なんだ、お前。今日は随分静かだな。」
向かい合って食卓に座っている三幸が、気味悪そうに俺を見た。
「なんだ?なんか悩みか?お前が静かだと調子狂うわ。」
俺の作った酢豚を食べながら、心底面倒くさそうに吐き出す彼と目が合う。
それだけで俺の心臓は勝手に心拍数を上げるし、手のひらは冷たくなって汗をかく。
「別に。・・何もないけど。」
絶対顔が赤くなっている。自覚があるけれど、他にどうしていいのかわからない。
俺は今まで誰にも恋愛感情なんて抱いたことがないし、それがどんなものなのか見当もつかなかった。
「なぁ、これ美味いな。俺、結構好きかも。」
お皿を指差しながら、彼が話題をそらした。
「え!美味い?」
嬉しい。嬉しくて思わず反射的に声が出た。
「ああ、美味い。」
最近彼は、俺が作った料理に対して何かしらの感想を言ってくれるようになった。
味が濃いとか、またあんかけ焼きそばかよ、とか文句に近い言葉もあるけど、
その後にさりげなくフォローしてくれているのも俺は知ってる。
「お前のその顔。」
「え?顔?!」
顔に何かついているのかと慌てて手のひらで触れる。
「犬みたいで可愛い。」
三幸はふっと吹き出しながら笑った。
ーーー可愛い・・・?俺が・・?
ボッと音が鳴ったかと思った。
俺は一気に赤面して、耳までジワ~っと熱くなっているのがわかる。
あぁ、もう。
やめてほしい。
こんな風に不意打ちで俺の心を乱すのは。
最近の俺は三幸と一緒にいると全然気持ちが休まらない。
いつまたこうして俺の心を乱すのかと、常にドキドキしていなきゃならないじゃんか。
「食器、いいよ、俺やるから。」
三幸がシンクで皿を流水で流しているのを見て、慌てて水を止めた。
「いや、食洗機に入れるだけだし。」
「俺がやるよ!そういう約束だし、これは俺の仕事!」
「お前ってそういうとこ本当律儀な。」
汚れを軽く落とした食器を、食洗機の中に移す。
「明日の打ち合わせ前に決めることあるんだろ?いいからそれやってろ。」
俺の分の食器にも、彼が手を伸ばす。
慌てて遮ろうとした俺と、三幸の顔が一気に近づいた。
ーーードクン。
心臓が、馬鹿みたいに大きく音を立てる。
俺は一体・・どうしちゃったんだろう。
至近距離で見つめ合う。
三幸は色が白くて肌が透き通ってるみたいに綺麗だ。
睫毛が長い大きな瞳は真っ黒で深くて、吸い込まれそうな錯覚に陥る。
『陸、美雨音 三幸のことが好きなんだろ』
碧の言葉が頭に響く。
俺は・・・三幸のことが好き・・・??
見つめ合ったままどうしたらいいかわからない俺は、その場から一歩も動くことが出来なかった。
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