Perfect Beat!

aika

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music.4 俺じゃなきゃダメ

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自分には歌しかない。音楽しかない。
陸は、そう思って生きてきた。

ばあちゃんが死んでから、俺は生きる目標が見えなくなった。
俺の歌の一番のファンは、ばあちゃん。
ばあちゃんを喜ばせたい一心で、バンド活動も頑張ってこれたから。

支えを失うという言葉の意味を実感していた俺に、手を差し伸べてくれたのは
バンドのメンバーたちだった。

みんなそれぞれ性格が違って、協調性がなくてバラバラだけどそれが良いと思っていた。
音楽に対する情熱は、同じだと感じていたから。
淡々としていて音楽以外は何にも興味がなさそうなベースの一哉、いつも緩くて適当だけど腕のいいギタリストの暁人、いつもニコニコしているけれど誰より肝が座ってて曲を作る才能があるドラムの碧。

俺は真っ直ぐで熱血だとよく言われるけれど、それはばあちゃんの支えがあったからなんだって、痛感した。
支えがなくなってしまった俺は、抜け殻みたいに、別人みたいになってしまった。

『陸、今日はどんな一日だった?』

晩ご飯を一緒に食べる時、ばあちゃんが俺に必ずそう聞いて、
今日あったことを報告する。
そんな些細なやりとりが俺を充電してくれていたのだと、無くして初めてそう気付いた。




「陸が元気ないと、なんだか調子狂うなぁ。」

ある日、バンド練習の途中で、突然ドラムのbeatが止まった。
碧が俺を見て、珍しく真顔で言う。

「陸、一旦ボーカルやめて、ドラムやってみる?」

「おい、碧、お前何言って・・・」

戸惑う俺に、一哉が口を開いた。

「それいいかも。やってみて、陸。」

「おいおい、お前ら急に何言っちゃってんの?・・じゃあ俺はベースやるか。」

批判するのかと思いきや、面白そうという表情で、ギターの暁人も話に乗ってきた。

「俺はギター結構自信あるけど。」

一哉と暁人はお互いの楽器を交換し始める。

「え・・・?お前ら、何言ってんの・・・?」

それから1週間後、俺たちはそれぞれの担当をチェンジして、ライブで一番人気のある曲を演奏することになった。



ドラムなんて叩いたことがないけれど、なんとか形にしようと一生懸命練習した。
こんなに必死で何か一つのことに打ち込むなんて、歌を始めた頃以来だ。

初めてバンドを組むことになった時の、ワクワクする感覚。

他のことが何も見えなくなるくらい、夢中で音を叩き出す。
自分の歌に、合わせて演奏してくれる仲間がいる幸福感。
みんなの気持ちが一つになって、息がぴったり重なる爽快感。

とにかく楽しくて、このバンドの音楽が大好きで、仲間と生み出すbeatがたまらなく気持ち良くて。俺はこのバンドのボーカルになれたことが心底幸せだった。



「あはは、結構うまいじゃん。ベースとギターの二人。」

演奏が終わった後、ポジションチェンジを提案した碧がやり切った!という顔で笑った。


「ギターとベースは似てるからな。作りが。」

暁人がピースサインを向ける。


「まぁ、こんなもんでしょ。」

一哉がいつものように淡々と言いながら、微かに微笑んだ。


みんなとても気持ちよさそうで、達成感に満ちていた。

この一体感。幸福感。


「なにこれ・・・」

思わず声が出ていた。
碧が歌うところを初めて見た。
自分以外のボーカルが歌うと、イメージがガラリと変わる。
碧の力強いドラムのbeatと比べて、情けないほどにか弱い自分のドラム。
あまりの下手さになんだか笑えてきた。


「俺のドラム、ボロボロだし・・!」

「いや、それを言うなら俺の歌でしょ!」

碧と俺は顔を見合わせて笑った。


「ね、わかったでしょ。このバンドは陸の歌じゃなきゃダメだって。」

碧の言葉を聴いて、俺は言葉が出てこなかった。

俺の歌じゃなきゃ、ダメ・・??


「確かに、陸の声じゃなきゃ俺らの音楽に合わない。」

「だ~よな。俺ら全員、定位置じゃなきゃ。いつものbeatが全然刻めてないじゃん。」

この2週間、ドラムの練習に打ち込んだことで、辛い気持ちを一瞬でも忘れることができた。
一生懸命音楽に打ち込む楽しさ。無我夢中で心を込めて音楽を生み出す、爽快さ。


俺は音楽が好きで、歌が好きで、ここにいる。

そんな当たり前のことを、どうして忘れていたんだろう。



「やっぱ陸の歌じゃなきゃ。」


ばあちゃんの言葉を思い出す。

『陸の歌は、最高だねぇ。ばあちゃんは陸の一番のファンだからね。』


俺は誰かのために、歌いたい。
俺の歌を聴いた誰かが笑顔になるように、歌い続けたい。

この瞬間に、はっきりとそう思ったんだ。



それから数日後、碧が持ち前の営業力でメジャーデビューを決めてきた。
事務所の社長に直接会っても、俺たちはまだなんだか夢見心地だった。

一緒に暮らしていたばあちゃんが亡くなって、俺が一人暮らしだと言うと、
社長はそれならルームシェアにちょうどいい人がいるからと提案してくれた。
ばあちゃんと二人で暮らした部屋に一人で居るのは、正直とても辛かったから俺は少しほっとしていた。

ばあちゃんと暮らした家はそのままにしておいて、俺は必要最低限の荷物だけを段ボールに詰めて、事務所の人に渡した。



「ようやくメジャーデビューか。」

碧の営業力はものすごい。彼の物怖じしない性格が、俺たちメンバーをここまで引っ張ってきてくれた。

「思ったよりずっと早かったけど。」
ベースの一哉はデビューが決まってもいつも通り淡々としていた。
浮かれることもなく、日々着実に歩を進めている。

「有名人になったら変装とかしないとだよな~。」
音楽活動以外のことを心配するギターの暁人は、メジャーデビューが決まっても相変わらずゆるい。


「よっしゃ!これから4人で天下目指そうぜ!!」

俺たちのバンドは全てがこれからで、ここから始まるんだ。
そう思うと、たまらなくワクワクした。

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