Perfect Beat!

aika

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music.2 プロデューサー

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「だっせえ。」


俺らの曲を聞いて開口一番、美雨音みうね 三幸みゆきはこう言った。

奴の物言いに驚いた俺は、開いた口が塞がらなかった。


彼は、俺たちのバンドのプロデューサー。
社長が紹介するとすぐに、厳しい言葉を浴び始める。



「あのな、お前の歌が、この曲をダメにしてんだよ。自覚ねぇのか?」


「え?え?・・・俺?」


遠慮なく、俺を指差してくる彼。
全く予想してなかった事態に、訳がわからず慌ててしまう。


「んだよ、自覚ねぇのかよ。だからガキは嫌なんだよな。」


「まぁまあ、三幸みゆき君。お手柔らかに頼むよ。」


見兼ねた社長が、俺と三幸の間に入った。
それにしても口が悪すぎやしないか、この男。

「曲は良い。アレンジの仕様はいくらでもあるけど、あ~、誰が作ってんだ?」

「あ、俺で~す!」

ドラムの真城ましろ あおが、可愛い顔にゆるい笑顔を浮かべて手をあげた。

三幸の方へむけて、ゆらゆらと手を振っている。

あおは敬語も態度も適当なのに、なぜか営業力がある。
ここの社長に俺たちのバンドを売り込んでメジャーデビューを決めたのも、彼だった。


「ドラムのやつが曲作ってんのかよ、変なバンド。」


相変わらずの三幸の毒舌もまるで気にも留めない様子で、碧はニカっと笑う。


「そうなんすよ。面白いでしょう?」


「で、アレンジは?」


「はーい。俺がやってまーす。」


ゆるさでは碧と同レベルのギタリスト、藤堂とうどう 暁人あきとが手を揚げた。


「なんかゆるいやつ多いな。このバンド。」


その意見には、俺も同感。
三幸の口の悪さにも、なんだか慣れてきた。


「で、お前らの曲は悪くねぇし、腕もそこそこ。」


「いいねえ。いいでしょ、このバンド。」


社長が喜んで、拍手をする動作を見せる。
社長なのに偉ぶっていなくて、とても話しやすい人柄だ。
見た目は髭の強面のおじさん、という感じなのに、とても温厚。

三幸の扱いもお手のもの、という距離感。
この社長、かなりの大物なのかもしれない。


「それが、お前の歌で台無しになってんだよ。おい。そこの犬。話聞いてるか?」


「い、犬?!」


いつの間にか犬呼ばわりされていることに驚いているうちに、社長が三幸の意見に同調する。


「あ~それなんかわかる。りくって、ワンコ君って感じだな。」


「そうなんですよ。そこがうちのボーカルの良いところで。ワンコ君、ってなんか可愛いでしょう。」


碧がゆるーい笑顔を浮かべて、満足そうに頷いた。
うんうん、とギターの暁人あきともベースの一哉かずやも顔を見合わせて首を縦に振っている。


「だから、この犬をなんとかすれば、このバンドはそれなりのとこまで行ける。以上。」


三幸が投げやりに話を終わらせようとする。


「え?俺~~!?」


「三幸くん。このバンドは君が責任持ってプロデュースするって約束だったよね。」

社長が三幸の肩に手を置いて、笑顔を向ける。
やっぱり彼は大物だ。迫力がある。


「な・・それは・・・そうだけど、」


美雨音みうね 三幸みゆきが押されている・・・!

髭強面ひげこわもての迫力はすごい。


「じゃあ責任持って、このワンコ君をメジャーデビューにふさわしい男に育て上げること。」

「なんで俺が・・ってか、俺そんな時間ないって一番あんたが知ってるだろ。スケジュール詰め込みやがって。あんたのせいでどんだけ俺が忙しい思いしてるか、わかってんのか?」


三幸のにらみも、社長にはまるで効いていない。
清々しいほどに、社長は強かった。


「だから、空き時間でレッスンできるように、三幸君の部屋で一緒に暮らすように荷物手配しといたから。」


「「はぁ?」」

俺と、三幸の声が綺麗に重なった。


確かに数日前、俺の引越し先は準備してあるから大丈夫と社長に言われたし、荷物も事務所の人に渡してあった。

どこで暮らすのかはまだ聞かされていなかったけれど、まさかこの天才作曲家、美雨音 三幸の部屋だったとは。
俺はまた開いた口が塞がらなかった。


「だってワンコ君以外の子たちは、みんな住んでる部屋あるんだもん。」

社長が、口を尖らせながら、可愛く言った。

「はぁ?意味わかんねぇ。」

「碧と、一哉が一緒に暮らしてて、暁人はお姉さんと暮らしてるから、ワンコ君の部屋ちょうど探してたんだよね。」

「ルームシェアさせればいいだろ。ガキはガキ同士。」

心底嫌だという顔で、三幸が言い捨てる。


「まぁまぁ、レッスン時間とる枠もないんだし、仕方ないでしょう。三幸君も共同生活に慣れた方が協調性も育まれるだろうし、ちょうど良い機会と思ってさ。」

「なんだよそれ・・・ったく、あんたはいつも本当に勝手だよな。」


三幸は諦めたように、大きなため息を吐き捨てた。
社長と三幸の関係性を、まざまざと見せつけられた気がする。


社長の命令は絶対。
この意地悪で口の悪い暴君でさえ、逆らえないらしい。


こうして、俺はあれよあれよと言う間に、天才作曲家、天才プロデューサー、とやたら肩書きの多いこの男、美雨音 三幸と一緒に暮らすことが決まってしまった。

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