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知らない女(SIDE レオン)
しおりを挟む彼女は、簡単に靡きそうになかった。
ハニートラップというには、あまりにお粗末な展開。
元々彼女は、潜入先のカフェのただの常連だ。
ノアの恋人だと思うと、急激に彼女の存在が俺の世界の中で意味を持つ。
完全に油断していた自分が憎い。
「七瀬さんのことを、聞かせてください。」
いつものパンケーキを差し出すと、彼女は静かにそう言った。
「僕のこと、ですか?」
「はい。七瀬さんのこと、もっと知りたいんです。」
秦野とうまく行っているんじゃないのか?
そんな疑問が、頭を掠める。
俺のことを知りたいなんて、脈アリと言っているようなものだ。
告白を断られた後の手を、すでに考えていたというのに。
「僕の何が、知りたいですか?」
「・・・あなたの背景。」
彼女の言葉に一瞬、背筋がぞくりと震える。
「背景、というのは?」
「どこで生まれたとか、どんな仕事をしているとか、どんな家族がいるとか、そういうことです。」
おかしなことを言う。どんな仕事をしているか?
これは俺に向けた言葉なんだろうか?
「じゃあ、僕とデートしてくれますか?そうしたら、どんな質問でも答えます。」
「わかりました。」
♢♢♢♢
彼女の部屋に、こんなに簡単に入れるとは思わなかった。
俺は、彼女の手料理を食べながら、彼女の質問に延々と答え続ける。
「家族は、姉さんがいます。遠くに嫁いだので、なかなか会えないんですよ。」
彼女は俺の話を楽しそうに聞いていた。
もちろん全て、架空の話だ。
彼女も俺の質問に答えて、家族の話や、仕事の話を色々としてくれた。
そんなことはもう全て、調査済みだ。
俺が聞き出したいのは、ただ一つ。
恋人のノアの話だけ。
「七瀬さんは・・・私の恋人に、似てるんです。」
俺が、ノアに似てるだと・・・・?
彼女が自分から彼の話をし始めたので、好都合だと思った。
どう聞き出そうか、ずっとタイミングを窺っていたから。
「あ、もう元恋人、なんですけど。」
彼女は自嘲気味に、そう呟いた。
「どんなところが、似ているんですか?」
俺の目を見つめたまま、彼女は沈黙する。
「本当のことを・・・・何も言ってくれないところです。」
彼女の言葉に、一気に鼓動が速くなる。
目の前にいる彼女が、全く知らない女の顔で俺を見つめていた。
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