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夏祭りの夜。
しおりを挟む恋愛は難しい。
女同士の恋愛なら特に。
感情はいつだって剥き出しで、隠すことも補正することもしない。
相手には合わせて欲しいと願うくせに、自分はいつだってありのままでありたい。
女とはそういう生き物だからだ。
理生と出会ったのは、高校の男友達と行った小さな夏祭りの夜だった。
歴史のある古びたレンガ造りの建物が多いこの街は、どこか懐かしい感じがするレトロな雰囲気の観光地だ。
白地に濃紺の大きな花が描かれた浴衣を着た彼女の姿を見た瞬間、その凛とした佇まいに私は初めて一目惚れというものを経験した。
「綺麗・・・・」
思わずそう口に出し、茫然と彼女を見つめる。
長い黒髪をアップにして、赤い花の飾りがついた簪がゆらゆらと揺れる。
白い肌に少しきつめの涼しげな目元。すっと真っ直ぐ伸びた背筋。
飾り気のない短い爪に、私は好感を持った。
古風な考え方で嫌だなと思うのだけれど、爪が短く切りそろえられている女性には好感を持ってしまう。
ジェルネイルやマニキュアや、最近はセルフでサロン仕上がりのようなケアができる時代だし、それも華やかで綺麗だけど、飾り気のない女性の爪が私は好きだった。
爪には人柄が現れるような気がするから。
必要以上に自分をよく見せようとしない女性なのだなと、勝手にそう予想する。
ジェルでぷっくりと武装され長く伸ばしている自分の爪を見て思う。
自分とは違った人間を求める。それは人間の本能なのかもしれない。
「よお。理生じゃん。」
男友達が片手を上げて、彼女に挨拶した。
聞くと、同じ中学の友人らしい。
「佐藤。久しぶりだね。」
男の子を苗字で呼び捨てする彼女の言い方に、私はまた好意的な感情を抱いた。
自分が女であることをまるで意識していないような、さらりとした言い方。
媚びたり、気を引こうとする様子が一切なかった。
「友達?」
彼女が私の目を見て、小さくお辞儀した。
にこり、ともしない彼女のツンとした表情に、その瞬間私は完全にノックアウトされてしまったのだ。
「相原 和香です。はじめまして。」
「あはは、お前、そんな固くならなくて大丈夫だって。理生は一見怖そうに見えるけどそうでもないから。」
彼女に見惚れる私を見て、彼がバンと背中を叩く。
「佐藤、それ失礼だから。」
佐藤に文句をつける言い方も、「久しぶりだね。」とまるでトーンが変わらない冷静な声色。
「鏡 理生。はじめまして。」
彼女はそう名乗ると、よろしく、と私に右手を差し出した。
一生忘れることができない、あの夏祭りの夜。
それが、理生との出会いだった。
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