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暗転
しおりを挟む事後のまどろみの中、ミノアは人生で最高と思えるような幸せな時間を過ごしていた。
ベッドで散々愛し合って、裸で抱き合う。
この時間を持てない男とは、長く付き合うつもりはなかった。
彼は完璧な男性に思える。
ミノアは彼が運命の男性なのかもしれないと、本気で思い始めていた。
隣に寝転ぶ彼の美しい顔を、彼女は夢見心地で眺める。
「ねぇ、あなたの名前は何ていうのかしら?」
何度も店で顔を合わせているからと気を許してしまったけれど、ミノアはまだ彼の名前さえ知らないのだ。
「僕の名前、まだお伝えしていませんでしたね。」
そういえば、私は彼に名乗ったことがあっただろうか?
ふとミノアはそんなことを考える。
先ほど彼は情事の最中に、「ミノアさん」と確かにそう呼んでいた。
「僕の名前はアーサー。名乗るのが遅れてすみません。」
「私は、あなたに名乗っていたかしら?」
「いいえ、あなたの口から直接は伺っていません。」
お店の誰かに聞いたということ?あの店の店員に名乗ったことがあっただろうか。
彼女は必死で過去の記憶を遡る。
名乗った覚えがない。
目の前にいる美しい男性が、急に得体の知れない人物に思えてミノアは冷や汗をかいた。
「兄さんからよくあなたの話を聞いていたものだから、あなたにはとても興味があったんですよ。」
なるほど。
ようやく合点がいった。ミノアはこの男性を見るたびに、妙な懐かしさが喚起されるのを感じていた。
彼は私がよく見知っている誰かの弟なのだ。
「お兄様がいらっしゃるの?」
「はい。あなたもよくご存知の男ですよ。」
「どなたかしら・・・?」
嫌な予感がする。
ミノアは妻帯者でない限り、見知った男のほとんどと寝ているのだから気が気じゃない。
「スメラギ公爵は僕の兄です。僕は訳あって養子に出された、実の弟なんですよ。」
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