【※R-18】Doctors!

『決心』（SIDE 甘崎 陽大）

～～～～登場人物～～～～

♡甘崎　陽大（かんざき　はると）　２６歳

生意気、毒舌、自信家の脳外科専攻医。
茶髪、耳下で揃えられたストレートヘア。
前髪パッツンだが、いつも前髪を縛って上に上げている。幼さの残る顔立ち。
チェック柄が好きで、持ち物は柄物が多い。
同期の雨宮を敵対視している。


♡野崎　一彦（のざき　かずひこ）　４０歳

陽大の上司。常識人の脳外科医。
清潔感のある七三分けの前髪をサイドに流している。
アダルトな雰囲気の色気のあるイケオジ。湊はエロ崎先生と呼んでいる。
腕は一流。いつも穏やかで、余裕のある大人の男。
いつも敬語でのんびり話す。
突っ走り傾向のある問題児、陽大が唯一素直に従う相手。


～～～～～～～～～～～


「あいつほんっと嫌なやつ。」

「まぁまぁ、陽大君。」

一彦さんはいつも穏やかで落ち着いている。

俺が同じ職場の医師に対して毎日のように文句を言っても、いつも笑顔で受け止めてくれる。


雑用みたいな仕事も率先してやるし、生意気な後輩がデカイ口を叩いても「若い人はいいですねぇ。血気盛んで頼もしい。」なんて、ニコニコしている。

怒ったり、声を荒げたりしているところを一度だって見たことがない。

研修医として脳神経外科に来た時、この科の医師は自信過剰な奴か、卑屈なクズしかいないと俺はうんざりしていた。
一彦さんが俺の指導医じゃなかったら、俺は脳神経外科医にならなかったかもしれない。

そもそも脳外科を目指していたのは、器用な手先が活かせそうだと言うことと、手術が一番難しそうだなと思ったからで、その他に特別な理由はなかった。
脳外科の研修が始まって数日経った頃には「外科ならなんでもいいや」ってくらいにはこの職場に嫌気がさしていた。

「甘崎君、どうしたんですか？」

「野崎先生ってなんでいつもニコニコしていられるんですか？あんなクズみたいな生意気な態度とる後輩とか、腕がよけりゃなんでもいいみたいな発言する馬鹿相手にいつも普通に接してるし・・・俺には耐えられない。」

彼は、いつも通りの笑顔で俺を見た。

「性格も態度もいろいろですけど、みんなやりたいことは同じですからね。」


ハッとした。
どんなに性格悪い医者も口の利き方さえ知らない馬鹿な医者も、みんな病気を治したい。
同じ目的がある。
自分の手術の腕を自慢している奴らも、自分のためだろうがなんだろうが結果として人の命を救っている。

「それに、色々な人がいた方が面白いでしょう。」

研修医時代、どんなに尊い思想を植え付けられるよりも、この言葉が一番効いた。




「一彦さん、この本読んでいい？」

彼の書斎には数え切れないほどの本が並んでいる。

「いいですよ。」

研修医を卒業して脳外科医になった俺は、手術の腕が認められてあっという間に難しい手術をやらせてもらえるようになった。
それは一彦さんがいるからだ。彼がサポートとしてついていてくれるから。

職場以外で二人で過ごす時は、「野崎先生」じゃなくて「一彦さん」と呼ぶことを許してくれた。仕事が終わると週に2回は一彦さんの部屋でこうして本や論文を読んでいるし、ここにこない時も毎日のように食事を共にしている。

元研修医と元指導医という関係から、恋人同士にステップアップしたいと俺は思っていた。

一彦さんは誰にでも優しいし、いつも笑顔だから俺のことをどう思っているのかとてもわかりにくい。
こうして俺だけに色々許してくれているのは、元指導医という立場からなのだろうか？

俺は何に対しても物怖じしない性格だけれど、失いたくないと思った存在が初めてで正直少し戸惑っている。

「一彦さん、」

「はい。なんですか？」

医学書を読んでいる彼は、こちらへ視線を向けた。

俺が呼ぶと、何をしている時でも必ず彼はこちらを見てくれる。

「今日、泊まっても・・いいですか？」

意を決してそう言った。
俺が敬語を使うなんて珍しいから、何か勘付いたかも、警戒されるかも、なんて余計な心配をする。


しばらく沈黙した後、彼はいつも通りの笑顔を浮かべる。


「いいですよ。明日はお休みですしね。」

そう言って、医学書に視線を戻した彼の真意は、全く読めない。

今夜、一彦さんに告白する。俺は心にそう決めていた。