24 / 62
『彼の病名』(SIDE 小椋 由)
しおりを挟む~~~~登場人物~~~~
♡小椋 由(おぐら ゆう) 26歳
赤い髪、短髪、スポーツ万能。小柄な体型、
単細胞で人懐っこい後輩キャラの医師。先輩医師の鶴屋と三条の二人に教育されながら、小児科医として日々奮闘している新米。
学生時代はバスケ部で、根性と体力だけは自信がある。体育会系でいつも元気なのが取り柄。
♡三条 冬紀(さんじょう ふゆき) 34歳
無表情で無口。淡々と喋る小児科医。
子ども相手にもにこりともしないポーカーフェイス。人間らしい表情や感情表現は誰も見たことがない。
いつも冷静で、素早い診断と的確な治療で信頼されている医師。
後輩の由のことを気にかけている。
~~~~~~~~~~~
俺の初恋の相手が入院していると聞いて驚いた。
さらに驚いたことに、彼の入院先はうちの病院らしい。
彼は高校生の時に一年だけ付き合った、俺の初めての恋人。
バスケ部の先輩だった。
言葉数は少ないけれど、一緒にいると優しさがじんわりと伝わってくるようなあたたかい人だった。
心があたたかい人は、喋らなくてもそうと伝わるものなんだってことを、俺に教えてくれた人。
小児科で働くようになってから、俺は地元の友達とほとんど会う機会がなくなっていた。
医師としての生活はとにかく忙しくて、目まぐるしく時間が過ぎ去っていく。
新米ということもあって、遊んでいる暇も余裕も全然ない。
寝る時間を惜しんででも吸収しなければならない知識や技術がたくさんあって、いつでも何かに追われている。
久々にバスケ部時代の親友から電話がきて、仕事で向かう道の途中で話を聞いた。
「お前の勤めてる病院だよな?」
「身体より大きな鞄」と揶揄されるリュックを背負って、病院前のスロープを抜ける。
「何科に入院してるか聞いてる?」
「消化器外科、って聞いた。」
電話の向こう、彼の声がワントーン下がる。
消化器外科。
嫌な予感がした。
消化器外科には同期の剛谷がいる。
聞き出したい気持ちはあるけれど、患者さんの病状は個人情報だからそう簡単にはいかない。
同期の連中も毎日忙しく奮闘している。
簡単に会う約束を取り付けることはできなかった。
お見舞いに行ってみようかとウジウジ悩んでいるうちに、院内でばったり彼に遭遇してしまった。
病院内の大きな売店。
忙しい時は売店で昼飯を買って、デスクでサッと食べる。
食べられるだけマシだ。
最近は三食のほとんどをこの売店にお世話になっている。
三条先生と一緒にお昼ご飯を買いに行くこの時間。
午前中頑張った自分へのご褒美みたいで、とても癒される。
「由・・・?」
点滴スタンドを押しながら歩くその姿を見た瞬間、すぐに彼だとわかった。
バスケ部の先輩。
俺の初恋の人。
初めての恋人。初めての失恋の相手。
彼には初めてをたくさんもらった。
当時の感情が急激に胸に迫って息を飲む。
彼は、全く変わっていなかった。
驚くほど何も。
「住野先輩!」
急に声を上げた俺に、隣で飲み物を選んでいた三条先生がチラリとこちらを見るのがわかった。
「久しぶりだね。由。」
先輩は、三条先生に軽く会釈をしながら言った。
「入院してるって聞いて、びっくりしてたんすよ。」
「聞いてたか?俺も、お前がここの医者になってるって聞いて、びっくりした。」
「小児科医に、なりました。」
思わず、涙が出そうになる。
医者なんて絶対に無理だと周りから散々言われていた当時の俺の、唯一の理解者でいてくれた人。
バスケ部と勉強の両立はきつかったけど、先輩がそばにいてくれたから乗り越えられた。
とても心強かったし、たくさん元気をもらった。
あの頃の自分を思い出す。
「すごいな。由、頑張ったんだな。」
「・・・ありがとうございます・・・」
ヤバイ、ほんとに泣きそうだ。
「由、先に行ってる。」
三条先生が気を使って、外してくれた。
気付いた先輩が、先生にまた軽くお辞儀をする。
「先輩、入院ってどこの科にかかってるんすか?」
俺は先輩の病状が気になって仕方なかった。
消化器外科だと知っていたけれど、どうしても彼の病名を知りたかったのだ。
「あぁ、消化器外科。・・・胃がん、なんだ。」
一瞬だけ、彼の逡巡が見て取れた。
一拍置いて、病名を告げる。
彼はまるで勤め先を紹介するようなごく自然な声音でそう言うと、俺を気遣うように優しく笑った。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
【※R-18】αXΩ 懐妊特別対策室
aika
BL
αXΩ 懐妊特別対策室
【※閲覧注意 マニアックな性的描写など多数出てくる予定です。男性しか存在しない世界。BL、複数プレイ、乱交、陵辱、治療行為など】独自設定多めです。
宇宙空間で起きた謎の大爆発の影響で、人類は滅亡の危機を迎えていた。
高度な文明を保持することに成功したコミュニティ「エピゾシティ」では、人類存続をかけて懐妊のための治療行為が日夜行われている。
大爆発の影響か人々は子孫を残すのが難しくなっていた。
人類滅亡の危機が訪れるまではひっそりと身を隠すように暮らしてきた特殊能力を持つラムダとミュー。
ラムダとは、アルファの生殖能力を高める能力を持ち、ミューはオメガの生殖能力を高める能力を持っている。
エピゾジティを運営する特別機関より、人類存続をかけて懐妊のための特別対策室が設置されることになった。
番であるαとΩを対象に、懐妊のための治療が開始される。
【※R-18】αXΩ 出産準備室
aika
BL
αXΩ 出産準備室
【※閲覧注意 マニアックな性的描写など多数出てくる予定です。BL、複数プレイ、出産シーン、治療行為など】独自設定多めです。
宇宙空間で起きた謎の大爆発の影響で、人類は滅亡の危機を迎えていた。
高度な文明を保持することに成功したコミュニティ「エピゾシティ」では、人類存続をかけて懐妊のための治療行為が日夜行われている。
大爆発の影響か人々は子孫を残すのが難しくなっていた。
人類滅亡の危機が訪れるまではひっそりと身を隠すように暮らしてきた特殊能力を持つラムダとミュー。
ラムダとは、アルファの生殖能力を高める能力を持ち、ミューはオメガの生殖能力を高める能力を持っている。
エピゾジティを運営する特別機関より、人類存続をかけて懐妊のための特別対策室で日夜治療が行われている。
番であるαとΩは治療で無事懐妊すると、出産準備室で分娩までの経過観察をし出産に備える。
無事出産を終えるまでの医師と夫婦それぞれの物語。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる