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『兄さん』(SIDE 二階堂 龍志)
しおりを挟む~~~~登場人物~~~~
♡二階堂 龍志(にかいどう りゅうじ) 24歳
側頭部を編み込んだヘアスタイル、黒髪。
男らしく強面の硬派な医学生。
運動神経が抜群。ラッパーとしてメジャーデビューもしている個性派。
群れ合うことを嫌う一匹狼タイプだが、同期の王寺とは気が合う。
形成外科で働く兄のことを慕っている。
♡二階堂 文喜(にかいどう ふみよし) 38歳
誰からも慕われている人格者。若くして形成外科の科長を任されている。
仕事ができ、学生部での講師も行っている。後輩からは慕われ、上司たちからは
可愛がられる万能人間。
明るくて有能、人当たりも良く、運動神経も抜群。
身体は大きく、背が高い。9頭身でモデル体型。
茶髪、真ん中分け、ゆるいウェーブ。銀縁の細眼鏡のイケメン。
~~~~~~~~~~~
俺の興味は、世界でたった一人の人間に注がれている。
二階堂 文喜。俺の兄さんだ。
俺の兄さんは、形成外科医をしている。
優秀で、最年少で科のトップに選ばれた天才。外科医として腕が良いだけでなく、人格者としか言いようのない人物でいつもたくさんの人に囲まれている。笑顔で人と接するのが兄の信条だ。
患者さんはもちろん、同僚、先輩後輩、医学生、取引先の業者に対してまで、兄さんはいつも笑顔を絶やさない。
俺の家は、先祖代々続く医師家系だ。
優秀な人間が多い家系だけれど、その家庭環境はすごく複雑。
俺は中学を卒業するまで、兄さんには一度も会ったことがなかった。
兄弟ではあるけれど、兄弟として過ごした時間はほとんどない。
俺は父さんが外に作った子どもだ。愛人の子どもというやつ。
初めて兄さんに会ったとき、自分の兄だとはどうしても思えなかった。
腹違いの兄だと、父親の口からそう言われても実感が湧かない。
全然似ていないし、それ以前に俺はすぐに兄さんのことを性の対象として見るようになったから。血のつながった兄弟、そう言われても俺は本能的にも理性的にも全く納得できなかった。
背が高くて骨組がしっかりとした身体。
初めて兄さんを目にした時、爽やかな風が吹き抜けた。そんな気がした。
俺は思わず見惚れていた。彼の仕草や表情、その全てが洗練されていて、美しかった。
彼の存在は、全てが完璧だった。
兄さんと出会うまで、俺は人間という生き物に興味を持てずに孤立していた。
この広い世界に俺はたった一人で、誰からも必要とされていないし、誰も必要としていない。孤独だった。
多感な年頃だったし家庭環境が複雑だったから、そうなっても仕方ない。
周りはそう言って取り繕うけれど、俺は他人に深く興味を持てない冷たい人間なんだと思っていた。
兄さんはすごく魅力的で、それまで出会ったどんな人間とも全く違う。
「龍志っていい名前だな。」
自分の父親が愛人に産ませた子ども。
そんなことまるで気にも留めていないという兄の柔らかい雰囲気に、俺は驚いた。
少しは嫌がるものなんじゃないか。そう思っていたから。
兄さんは父さんと違って自分の考えを押し付けたり、頭ごなしに否定したりしなかった。
俺の髪型や、好きな音楽や、スポーツや、そういうものを父さんは全て否定した。
そんな髪型するなだの、クラシックや高尚な音楽を聴けだの、俺の存在そのものが全て気に入らないというように文句をつけた。
そんなに気に入らないのなら、生ませなければよかったのに。
「龍志、今日も兄貴のとこ行くの?」
授業が終わって教室を出ようとしたら、同期の王寺睦也に声をかけられた。
女みたいな顔をした奴だけど、話してみるとすごく男らしくて肝の座った男だ。
お互いあまり他人と群れない性質で気が合う。
「行く。」
「俺も飯田先生のとこに行くんだ。」
「あぁ。うまく行ってんのか?」
「俺のこと好きじゃないみたい。はっきり振ってくれるわけでもないし、諦めきれないよ。」
睦也は呼吸器外科の医師に恋をしている。
俺も数週間前まで同じ片思いの立場だったから、彼の気持ちがよくわかった。
どんなに好きでも、相手の気持ちや立場があるから、恋愛は難しい。
♢♢♢♢♢♢
「龍志、俺の部屋で一緒に暮さないか?」
告白して、両思いになってから数週間。
兄さんからの思いがけない提案に、俺は頭が真っ白になった。
「え・・?」
「部屋も余ってるし、実家だとお前も窮屈だろう?」
兄さんは、デスクに向かって書類を書きながらそう言った。
俺が黙っていると振り返って、こちらを見る。
「ゆっくり考えてくれて構わない。今すぐじゃなくてもいいしな。」
「暮らす・・・!兄さんと一緒に暮らす・・・!」
俺の心は決まっていた。
出来るなら兄さんと四六時中一緒に居たい。そう願っていたから。
「良い子だね。おいで。」
兄さんは俺の手を引いて、自分の片膝の上に座らせた。
男らしい彼の腕。太ももの感触。
「お前と一秒でも長く一緒に居たいよ。」
耳元に兄さんの唇が触れる。甘く、低い声。
俺は兄さんに夢中だった。彼の言うことならなんでも従うだろう。
兄さんが俺の全てだ。
「俺も・・・兄さんと一緒に居たい。」
兄さんが触れる部分、全てが熱い。
彼に見つめられると、身体が溶けてしまいそうになる。
触れるだけのキス。
彼のにおい。彼の全てが欲しい。
「一緒に暮らそう。すぐにでも。」
兄さんの声を聞きながら、俺はゆっくりと頷いて目を閉じた。
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