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『先輩』(SIDE 鮎原 恵巳)
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~~~~登場人物~~~~
♡鮎原 恵巳(あゆはら めぐみ)29歳
病理検査技師。皮膚科の白河をセンパイと呼んでいるが、タメ口。
日焼けした肌、分厚い二重瞼。エキゾチックな雰囲気の男。
深い茶色の髪色。
白河とは恋人同士だと噂されている。
淡々と喋り、ポーカーフェイス。
#x2661;白河 傑(しらかわ すぐる)33歳
皮膚科医。サラサラの黒髪。黒縁メガネ。
日常会話はほとんどしないが、仕事の話となると饒舌。
生検好き。
病理検査技師の鮎原と仲が良く、皮膚科にいないときは病理検査室にいる。
~~~~~~~~~~~
『先輩』(SIDE 鮎原 恵巳)
病理検査技師になったのは、白河先輩と出会ったことがきっかけだった。
中高一貫の中学に通っていた俺は、将来の夢なんてものとは縁がないくらい、冷め切った学生生活を送っていた。
まさに夢も希望も何もなかった。
歳の離れた兄二人は優秀な外科医。
学生時代も頭脳明晰、スポーツ万能。優秀な兄を持つと、とても生き辛い。
いつでも優秀な兄たちと比べられる。
俺は一家の落ちこぼれとして卑屈な性格に育ってしまった。
何をしてもお前はダメだと周りから言われる。言われるうちに本当に自分はダメなのだと思い込むようになっていった。
努力しても意味がない。自分がこんなに辛いのに、医者になって病気の人を助けるなんて考えられない。
中学生になる頃には家に帰るのが嫌で、放課後は図書館で時間を潰すようになった。
白河先輩とは図書館で出会った。
白河 傑。高等部に通う秀才。
彼は学内でとても有名で、中等部にまでその名は知れ渡っていた。
優秀すぎて授業が免除されていたらしい。
図書館でよく姿を見かけた。
分厚い本を広げて読む彼は真剣な眼差しで、まるで自分だけの世界に入り込んでいるようだった。
あまりに真剣に見つめているので、どんな本を読んでいるのかひどく気になった。
この図書館に夢中になるような面白い本があるだろうか?
あるわけがない。
そんな風に断言できるほどに、俺は皮肉屋で冷めた子どもだった。
彼はよく病理の標本を見ていた。
俺は気になって、彼が本棚に戻した本を開いてみた。
生物の細胞。細胞の変化。皮膚の断面。
細胞の写真だらけだ。
何ページめくってみても、全てが同じに見えた。
「その本、興味あるのか?」
ある日、いつもより遅い時間に図書館にきた彼は、読みかけの本を俺が読んでいることに気づいて、声をかけてきた。
「全然。・・・ただ、アンタがあまりにも真剣に読んでるから、面白い本かと思って。」
「面白かった?」
「全然。少しも面白くない。同じ写真ばっかりだし。」
彼はふっと、微笑んだ。
その笑い方が爽やかで、俺は驚いた。
思わず数秒間、見惚れてしまっていた。
こんな本を夢中で読む奴は、嫌味で人を見下すような性格の悪い人間だとばかり思っていたから。
頭の良い奴らは、いつも俺を見下している。
『恵巳、お前こんなことも理解できないのか?』
兄にバカにされたことを思い出す。
何度鼻で笑われたことか。
「悪性腫瘍と良性腫瘍の違い、わかるか?」
興味がないときっぱり言ったのに、彼はまるで気にしていない様子で話を進める。
俺の開いていたページの写真をトントンと指差した。
隣の席に座って、横から手を伸ばし本のページをめくった。
至近距離に彼の顔がある。
長い睫毛。白い肌。知的な視線。
目が合うと、彼は口元に笑みを浮かべる。
俺はなぜかドキドキしてしまう自分に驚いて、目をそらした。
その日から、俺は色々なことを学んでいった。
放課後、授業が終わると図書館に集合。
歳も離れているし、秀才と落ちこぼれで共通点のない2人が、毎日何時間も一緒に過ごす。
家庭教師と生徒のような間柄だった。
物分かりの悪い俺に、彼は根気強く色々な知識を教え込んだ。
面倒じゃないのか、と疑問だったけれど、そんなことは聞くまでもなかった。
彼はとても楽しそうに話していたから。
兄たちのように難しい言葉を並べ立てて、俺を嘲笑うようなやり方ではなく、
子どもにでもわかるような簡単な言葉を使って優しく噛み砕いて説明する。
本当に頭の良い人間は、誰にでもわかるように説明できるんだ。
彼を見ていると、そう思った。
難しくて読み解くことさえ面倒に思えた分厚い本が、彼の手に掛かるとまるで違うものに見えてくる。好奇心を刺激される。
もっと、もっと知りたいと思った。
知識を得ることに、貪欲になる。そんな日が来るとは夢にも思っていなかった。
長い間、自分はダメな人間なんだと思っていたから。
彼の話す言葉全てが新鮮で、脳内に直接入り込んでくるようだった。
彼が自分に対して言ってくれたことは全て、覚えようと努力しなくても知識として定着していく。
俺はすっかり白河傑という男に魅了されていた。
彼の隣で、同じ世界をずっと見ていたい。
それが俺の目標になった。
数年後、病理検査技師の仕事に就いた俺は、白河先輩と再会する。
偶然なんかじゃない。俺が自分で思い描いた未来を掴み取ったんだ。
あの日、あの本を開いたことで俺の人生は全く違う方向へ動き出した。
白河先輩と出会ったことで、人生が開けた。
何事にも無関心で興味を持てなかっった自分が、夢中になれるもの。
彼のおかげで見つけることができた。
「久しぶりだな。恵巳。」
彼は俺を覚えていてくれた。
人生を変えてくれた人。
彼は白衣がよく似合う、皮膚科の医師として俺の目の前に現れた。
「久しぶり、です。」
あの日と同じように、またここから始まる気がした。
♡鮎原 恵巳(あゆはら めぐみ)29歳
病理検査技師。皮膚科の白河をセンパイと呼んでいるが、タメ口。
日焼けした肌、分厚い二重瞼。エキゾチックな雰囲気の男。
深い茶色の髪色。
白河とは恋人同士だと噂されている。
淡々と喋り、ポーカーフェイス。
#x2661;白河 傑(しらかわ すぐる)33歳
皮膚科医。サラサラの黒髪。黒縁メガネ。
日常会話はほとんどしないが、仕事の話となると饒舌。
生検好き。
病理検査技師の鮎原と仲が良く、皮膚科にいないときは病理検査室にいる。
~~~~~~~~~~~
『先輩』(SIDE 鮎原 恵巳)
病理検査技師になったのは、白河先輩と出会ったことがきっかけだった。
中高一貫の中学に通っていた俺は、将来の夢なんてものとは縁がないくらい、冷め切った学生生活を送っていた。
まさに夢も希望も何もなかった。
歳の離れた兄二人は優秀な外科医。
学生時代も頭脳明晰、スポーツ万能。優秀な兄を持つと、とても生き辛い。
いつでも優秀な兄たちと比べられる。
俺は一家の落ちこぼれとして卑屈な性格に育ってしまった。
何をしてもお前はダメだと周りから言われる。言われるうちに本当に自分はダメなのだと思い込むようになっていった。
努力しても意味がない。自分がこんなに辛いのに、医者になって病気の人を助けるなんて考えられない。
中学生になる頃には家に帰るのが嫌で、放課後は図書館で時間を潰すようになった。
白河先輩とは図書館で出会った。
白河 傑。高等部に通う秀才。
彼は学内でとても有名で、中等部にまでその名は知れ渡っていた。
優秀すぎて授業が免除されていたらしい。
図書館でよく姿を見かけた。
分厚い本を広げて読む彼は真剣な眼差しで、まるで自分だけの世界に入り込んでいるようだった。
あまりに真剣に見つめているので、どんな本を読んでいるのかひどく気になった。
この図書館に夢中になるような面白い本があるだろうか?
あるわけがない。
そんな風に断言できるほどに、俺は皮肉屋で冷めた子どもだった。
彼はよく病理の標本を見ていた。
俺は気になって、彼が本棚に戻した本を開いてみた。
生物の細胞。細胞の変化。皮膚の断面。
細胞の写真だらけだ。
何ページめくってみても、全てが同じに見えた。
「その本、興味あるのか?」
ある日、いつもより遅い時間に図書館にきた彼は、読みかけの本を俺が読んでいることに気づいて、声をかけてきた。
「全然。・・・ただ、アンタがあまりにも真剣に読んでるから、面白い本かと思って。」
「面白かった?」
「全然。少しも面白くない。同じ写真ばっかりだし。」
彼はふっと、微笑んだ。
その笑い方が爽やかで、俺は驚いた。
思わず数秒間、見惚れてしまっていた。
こんな本を夢中で読む奴は、嫌味で人を見下すような性格の悪い人間だとばかり思っていたから。
頭の良い奴らは、いつも俺を見下している。
『恵巳、お前こんなことも理解できないのか?』
兄にバカにされたことを思い出す。
何度鼻で笑われたことか。
「悪性腫瘍と良性腫瘍の違い、わかるか?」
興味がないときっぱり言ったのに、彼はまるで気にしていない様子で話を進める。
俺の開いていたページの写真をトントンと指差した。
隣の席に座って、横から手を伸ばし本のページをめくった。
至近距離に彼の顔がある。
長い睫毛。白い肌。知的な視線。
目が合うと、彼は口元に笑みを浮かべる。
俺はなぜかドキドキしてしまう自分に驚いて、目をそらした。
その日から、俺は色々なことを学んでいった。
放課後、授業が終わると図書館に集合。
歳も離れているし、秀才と落ちこぼれで共通点のない2人が、毎日何時間も一緒に過ごす。
家庭教師と生徒のような間柄だった。
物分かりの悪い俺に、彼は根気強く色々な知識を教え込んだ。
面倒じゃないのか、と疑問だったけれど、そんなことは聞くまでもなかった。
彼はとても楽しそうに話していたから。
兄たちのように難しい言葉を並べ立てて、俺を嘲笑うようなやり方ではなく、
子どもにでもわかるような簡単な言葉を使って優しく噛み砕いて説明する。
本当に頭の良い人間は、誰にでもわかるように説明できるんだ。
彼を見ていると、そう思った。
難しくて読み解くことさえ面倒に思えた分厚い本が、彼の手に掛かるとまるで違うものに見えてくる。好奇心を刺激される。
もっと、もっと知りたいと思った。
知識を得ることに、貪欲になる。そんな日が来るとは夢にも思っていなかった。
長い間、自分はダメな人間なんだと思っていたから。
彼の話す言葉全てが新鮮で、脳内に直接入り込んでくるようだった。
彼が自分に対して言ってくれたことは全て、覚えようと努力しなくても知識として定着していく。
俺はすっかり白河傑という男に魅了されていた。
彼の隣で、同じ世界をずっと見ていたい。
それが俺の目標になった。
数年後、病理検査技師の仕事に就いた俺は、白河先輩と再会する。
偶然なんかじゃない。俺が自分で思い描いた未来を掴み取ったんだ。
あの日、あの本を開いたことで俺の人生は全く違う方向へ動き出した。
白河先輩と出会ったことで、人生が開けた。
何事にも無関心で興味を持てなかっった自分が、夢中になれるもの。
彼のおかげで見つけることができた。
「久しぶりだな。恵巳。」
彼は俺を覚えていてくれた。
人生を変えてくれた人。
彼は白衣がよく似合う、皮膚科の医師として俺の目の前に現れた。
「久しぶり、です。」
あの日と同じように、またここから始まる気がした。
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