【※R-18】Doctors!

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『医者と患者』(SIDE 朝萩 千秋)

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~~~~登場人物~~~~


♡朝萩 千秋(あさはぎ ちあき)33歳

消化器外科医。
サラサラのロングヘア 。後ろ姿は女性に見えるのでよく間違われる。
女性のような可愛らしい顔立ち。
双子の姉がおり、他病院で医者をしている。


♡白河 傑(しらかわ すぐる) 33歳

皮膚科医。サラサラの黒髪。黒縁メガネ。
日常会話はほとんどしないが、仕事の話となると饒舌。
生検好き。
病理検査技師の鮎原と仲が良く、皮膚科にいないときは病理検査室にいる。


♡笹原 水樹(ささはら みずき) 33歳

消化器外科医。
千秋とは同期で仲が良い。
黒髪、前髪は真ん中分け、毛先はカールしている。
いつもは軽い印象だが、観察眼があり物事を見極める能力が高い冷静な医師。
千秋のことを一途に想っている。


~~~~~~~~~~~


先日の生検の結果は良性だったけれど、同期の白河に手術してもらうことにした。
すぐに決断したのは彼に切ってもらいたいと、純粋にそう思ったからだ。



「良性なんだから、そんなに慌てて切る必要ないんじゃねぇの?」


同じ消化器外科の医師、笹原 水樹が口を尖らせながら文句を言う。


「そうは思ったんだけど、なんだか気になる場所だから、どうせいつか切るなら早いうちにと思ってね。」



この程度の良性腫瘍を切除する手術なら、20分もかからないだろう。
仕事の合間の時間に、手術してもらうことにした僕は、昨夜からドキドキして眠れなかった。


消化器外科として生きる僕は、精神力や図太さには自信があった。
どんなに難しくて大きな手術の前でも余裕で眠れる神経の持ち主だと自負する僕が、眠れないなんて人生初めてのことだ。
眠りに入ろうとウトウトするたびに、白河の真剣な視線を感じてハッとする。

先日の生検の最中、ちらりと盗み見た彼の真剣な眼差し。
身体の一部分をあれほど凝視されるというのは、なかなか出来ない経験だ。
妙にドキドキして、後ろめたいような、恥ずかしいような、不思議な気持ちだった。

自分がいつも患者さんにしているのと同じ。ただの医療行為だ。
そう言い聞かせてみても、彼のことが頭から離れない。

無駄に整った男前な顔立ちをしているあいつが悪い。
なんて、悪態をついてみても、鼓動はなかなか鎮まらなかった。

以前水樹が言っていた、佐野という医師の話を思い出す。
白河に切られて、興奮したという彼の話。

ーーーわからないでもない。

心の中でそう呟いてみて、慌てて首を横に振る。

僕は何を考えているんだろう。馬鹿みたいだ。



簡単な手術だけれど、麻酔針の痛みを和らげるための麻酔テープを処方されたので、水樹が貼ってくれる。

「千秋?」
首を大きく振った僕に驚いた彼が、顔を覗き込んできた。

「あ、ごめん。ありがとう。これくらい自分で貼れるのに。」

水樹は僕にとても過保護だ。
同じ医学部で切磋琢磨してきた友人。
医師になってからも彼とは相変わらず仲が良い。
同じ消化器外科志望だったので、どんな試練も一緒に乗り越え、共に勉強してきた。

「医療従事者が周りにたくさんいるんだから、これくらいいつでもやるって。」

「いや、僕も医者なんだけど。」

「今日は、患者だろ。」

ーーー患者。

その響きに心臓がドクン、と鳴った。

循環器も診てもらった方が良いだろうか?
最近、僕の心臓はいつもドキドキとうるさい。

自分が患者として医者に診てもらうなんて、何年ぶりだろう。
相手が白河じゃなくても、僕はこうして緊張していたはずだ。

まるで誰かに言い訳でもしているように、僕は自分に言い聞かせる。

水樹は僕の感情に気付いているのかもしれない。
彼はとても繊細で、細かな変化にも気付く天才だから。
彼の聡明さ、観察眼の鋭さは僕が一番知っている。
白河に手術されることに興奮しているなんて、絶対に知られたくない相手だ。
僕はなんて不謹慎な医者なんだろう。



「やあ、朝萩。気分はどうだ?」

手術着の白河は、普段より穏やかな表情で現れた。
医学部時代、ほとんど話したこともなかった。
無口で無愛想。変わり者で有名だった。
少し変わったアプローチだけれど、本当に頭の良い男だと、本能的に感じるものがあった。
人間だって動物だ。自分より格上の人間や、能力値の高い人間は、肌でそうとわかる。
白河に対して感じる違和感は、彼が優秀すぎるが故の警戒心が元凶なのだ。

「お疲れ様、気分は良いよ。」

「切るのは慣れてても、切られるのは慣れないだろ?緊張してるか?」

「冗談。素人じゃあるまいし。こんなの手術のうちに入らないでしょ。」

精一杯の強がりだった。
手術に対する恐怖心でも、拒絶でもない。
身体中が期待にソワソワしている。

白河傑という医師に、自分の身体の一部を切除される。
僕は今、興奮しているのだと思う。

「確かにな。すぐに終わるよ。安心しろ。」

「別に何も心配してないよ。」

僕はそんなに緊張しているように見えるのだろうか?
それとも医者の他愛もないサービストークか。
僕も患者さんに似たような声がけをする。こんなにフランクで無作法な会話ではないけれど、
相手に安心してもらいたいと、声をかける。



局所麻酔というのはありがたい。
身体の前面に切除箇所があるということも。

手術中、ずっと僕は白河を見ていられる。

彼の真剣な眼差し。
真摯な医師の信念を感じさせ、僕をひどく魅了する。
同じ医師として、心に響くものがあった。

僕は手術中の彼の真剣な顔をいつまでも見ていたいとさえ思っている自分に気がついた。
生検がきっかけで始まる恋なんて、他にあるだろうか?

ーーー恋。

これは恋なのかもしれない。


彼の目を見てそう思った。
手術が終わる頃には、僕は白河傑という医師の虜になってしまっていた。



「明日また傷を見せて。抜糸するまではシャワーだけで。お前も医者だからいちいち言う必要ないと思うけど。」

縫合する彼の手つきに惚れ惚れしてしまった僕は、放心状態で彼の指示に頷く。

「あぁ、わかってる。」

「どうした?怖かったか?」

「そんなわけ、」

ない。と言おうとして彼を見上げると、頭にポンと手が触れた。

白河は子どもを見るような目で、僕を見ていた。


「俺が診て、なんでも治してやるよ。」


ーーーこんな顔出来るんだ。初めて見た・・・

彼の微笑み。
僕はこの瞬間、この男に恋をしたのだと、確信してしまった。

心臓がドキドキうるさい。
真剣な眼差しから一転、優しく慈しむような彼の目に、僕は恋に落ちたのだと自覚した。
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