12 / 62
『医者と患者』(SIDE 朝萩 千秋)
しおりを挟む~~~~登場人物~~~~
♡朝萩 千秋(あさはぎ ちあき)33歳
消化器外科医。
サラサラのロングヘア 。後ろ姿は女性に見えるのでよく間違われる。
女性のような可愛らしい顔立ち。
双子の姉がおり、他病院で医者をしている。
♡白河 傑(しらかわ すぐる) 33歳
皮膚科医。サラサラの黒髪。黒縁メガネ。
日常会話はほとんどしないが、仕事の話となると饒舌。
生検好き。
病理検査技師の鮎原と仲が良く、皮膚科にいないときは病理検査室にいる。
♡笹原 水樹(ささはら みずき) 33歳
消化器外科医。
千秋とは同期で仲が良い。
黒髪、前髪は真ん中分け、毛先はカールしている。
いつもは軽い印象だが、観察眼があり物事を見極める能力が高い冷静な医師。
千秋のことを一途に想っている。
~~~~~~~~~~~
先日の生検の結果は良性だったけれど、同期の白河に手術してもらうことにした。
すぐに決断したのは彼に切ってもらいたいと、純粋にそう思ったからだ。
「良性なんだから、そんなに慌てて切る必要ないんじゃねぇの?」
同じ消化器外科の医師、笹原 水樹が口を尖らせながら文句を言う。
「そうは思ったんだけど、なんだか気になる場所だから、どうせいつか切るなら早いうちにと思ってね。」
この程度の良性腫瘍を切除する手術なら、20分もかからないだろう。
仕事の合間の時間に、手術してもらうことにした僕は、昨夜からドキドキして眠れなかった。
消化器外科として生きる僕は、精神力や図太さには自信があった。
どんなに難しくて大きな手術の前でも余裕で眠れる神経の持ち主だと自負する僕が、眠れないなんて人生初めてのことだ。
眠りに入ろうとウトウトするたびに、白河の真剣な視線を感じてハッとする。
先日の生検の最中、ちらりと盗み見た彼の真剣な眼差し。
身体の一部分をあれほど凝視されるというのは、なかなか出来ない経験だ。
妙にドキドキして、後ろめたいような、恥ずかしいような、不思議な気持ちだった。
自分がいつも患者さんにしているのと同じ。ただの医療行為だ。
そう言い聞かせてみても、彼のことが頭から離れない。
無駄に整った男前な顔立ちをしているあいつが悪い。
なんて、悪態をついてみても、鼓動はなかなか鎮まらなかった。
以前水樹が言っていた、佐野という医師の話を思い出す。
白河に切られて、興奮したという彼の話。
ーーーわからないでもない。
心の中でそう呟いてみて、慌てて首を横に振る。
僕は何を考えているんだろう。馬鹿みたいだ。
簡単な手術だけれど、麻酔針の痛みを和らげるための麻酔テープを処方されたので、水樹が貼ってくれる。
「千秋?」
首を大きく振った僕に驚いた彼が、顔を覗き込んできた。
「あ、ごめん。ありがとう。これくらい自分で貼れるのに。」
水樹は僕にとても過保護だ。
同じ医学部で切磋琢磨してきた友人。
医師になってからも彼とは相変わらず仲が良い。
同じ消化器外科志望だったので、どんな試練も一緒に乗り越え、共に勉強してきた。
「医療従事者が周りにたくさんいるんだから、これくらいいつでもやるって。」
「いや、僕も医者なんだけど。」
「今日は、患者だろ。」
ーーー患者。
その響きに心臓がドクン、と鳴った。
循環器も診てもらった方が良いだろうか?
最近、僕の心臓はいつもドキドキとうるさい。
自分が患者として医者に診てもらうなんて、何年ぶりだろう。
相手が白河じゃなくても、僕はこうして緊張していたはずだ。
まるで誰かに言い訳でもしているように、僕は自分に言い聞かせる。
水樹は僕の感情に気付いているのかもしれない。
彼はとても繊細で、細かな変化にも気付く天才だから。
彼の聡明さ、観察眼の鋭さは僕が一番知っている。
白河に手術されることに興奮しているなんて、絶対に知られたくない相手だ。
僕はなんて不謹慎な医者なんだろう。
「やあ、朝萩。気分はどうだ?」
手術着の白河は、普段より穏やかな表情で現れた。
医学部時代、ほとんど話したこともなかった。
無口で無愛想。変わり者で有名だった。
少し変わったアプローチだけれど、本当に頭の良い男だと、本能的に感じるものがあった。
人間だって動物だ。自分より格上の人間や、能力値の高い人間は、肌でそうとわかる。
白河に対して感じる違和感は、彼が優秀すぎるが故の警戒心が元凶なのだ。
「お疲れ様、気分は良いよ。」
「切るのは慣れてても、切られるのは慣れないだろ?緊張してるか?」
「冗談。素人じゃあるまいし。こんなの手術のうちに入らないでしょ。」
精一杯の強がりだった。
手術に対する恐怖心でも、拒絶でもない。
身体中が期待にソワソワしている。
白河傑という医師に、自分の身体の一部を切除される。
僕は今、興奮しているのだと思う。
「確かにな。すぐに終わるよ。安心しろ。」
「別に何も心配してないよ。」
僕はそんなに緊張しているように見えるのだろうか?
それとも医者の他愛もないサービストークか。
僕も患者さんに似たような声がけをする。こんなにフランクで無作法な会話ではないけれど、
相手に安心してもらいたいと、声をかける。
局所麻酔というのはありがたい。
身体の前面に切除箇所があるということも。
手術中、ずっと僕は白河を見ていられる。
彼の真剣な眼差し。
真摯な医師の信念を感じさせ、僕をひどく魅了する。
同じ医師として、心に響くものがあった。
僕は手術中の彼の真剣な顔をいつまでも見ていたいとさえ思っている自分に気がついた。
生検がきっかけで始まる恋なんて、他にあるだろうか?
ーーー恋。
これは恋なのかもしれない。
彼の目を見てそう思った。
手術が終わる頃には、僕は白河傑という医師の虜になってしまっていた。
「明日また傷を見せて。抜糸するまではシャワーだけで。お前も医者だからいちいち言う必要ないと思うけど。」
縫合する彼の手つきに惚れ惚れしてしまった僕は、放心状態で彼の指示に頷く。
「あぁ、わかってる。」
「どうした?怖かったか?」
「そんなわけ、」
ない。と言おうとして彼を見上げると、頭にポンと手が触れた。
白河は子どもを見るような目で、僕を見ていた。
「俺が診て、なんでも治してやるよ。」
ーーーこんな顔出来るんだ。初めて見た・・・
彼の微笑み。
僕はこの瞬間、この男に恋をしたのだと、確信してしまった。
心臓がドキドキうるさい。
真剣な眼差しから一転、優しく慈しむような彼の目に、僕は恋に落ちたのだと自覚した。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
松本先生のハードスパンキング パート1
バンビーノ
BL
中学3年になると、新しい学年主任に松本先生が決まりました。ベテランの男の先生でした。校内でも信頼が厚かったので、受験を控えた大事な時期を松本先生が見ることになったようです。松本先生は理科を教えていました。恰幅のすごくいいどっしりした感じの先生でした。僕は当初、何も気に留めていませんでした。特に生徒に怖がられているわけでもなく、むしろ慕われているくらいで、特別厳しいという噂もありません。ただ生活指導には厳しく、本気で怒ると相当怖いとは誰かが言っていましたが。
初めての理科の授業も、何の波乱もなく終わりました。授業の最後に松本先生は言いました。
「次の授業では理科室で実験をする。必ず待ち針をひとり5本ずつ持ってこい。忘れるなよ」
僕はもともと忘れ物はしない方でした。ただだんだん中学の生活に慣れてきたせいか、だらけてきていたところはあったと思います。僕が忘れ物に気がついたのは二度目の理科の始業ベルが鳴った直後で、ほどなく松本先生が理科室に入ってきました。僕は、あ、いけないとは思いましたが、気楽に考えていました。どうせ忘れたのは大勢いるだろう。確かにその通りで、これでは実験ができないと、松本先生はとても不機嫌そうでした。忘れた生徒はその場に立つように言われ、先生は一人ずつえんま帳にメモしながら、生徒の席の間を歩いて回り始めました。そして僕の前に立った途端、松本先生は急に険しい表情になり、僕を怒鳴りつけました。
「なんだ、その態度は! 早くポケットから手を出せ!」
気が緩んでいたのか、それは僕の癖でもあったのですが、僕は何気なくズボンのポケットに両手を突っ込んでいたのでした。さらにまずいことに、僕は先生に怒鳴られてもポケットからすぐには手を出そうとしませんでした。忘れ物くらいでなぜこんなに怒られなきゃいけないんだろう。それは反抗心というのではなく、目の前の現実が他人事みたいな感じで、先生が何か言ったのも上の空で聞き過ごしてしまいました。すると松本先生はいよいよ怒ったように振り向いて、教卓の方に向かい歩き始めました。ますますまずい。先生はきっと僕がふてくされていると思ったに違いない。松本先生は何か思いついたように、教卓の上に載せてあった理科室の定規を手に取りました。それは実験のときに使う定規で、普通の定規よりずっと厚みがあり、幅も広いがっしりした木製の一メートル定規です。松本先生はその定規で軽く素振りをしてから、半ば独り言のようにつぶやいたのでした。「いまからこれでケツひっぱたくか……」。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる