【※R-18】Doctors!

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『ライバル関係』(SIDE 雨宮 紡)

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~~~~登場人物~~~~


♡雨宮 紡(あまみや つむぎ) 26歳

有明の同期。脳外科専攻の医師。
黒髪、黒目がちな瞳。物静かで、着々と仕事に専念するタイプ。
終始落ち着いていて、あまり笑顔を見せないポーカーフェイス。
研修医時代に指導してもらった内科の音川に想いを寄せている。


♡音川 直佳(おとかわ なおか) 33歳 

185センチの長身、細身。食べても太れない体質。実は大食い。食べることが大好き。
真ん中で髪を分けているが、髪質がストレートでサラサラのため、すぐに落ちてきて目にかかるのがストレス。
飄々としていて適当な冗談ばかり言うが、内科医としては優秀。
人の心理を読むことに長けていて、後輩をからかうのが好き。


♡皇 五香(すめらぎ ごこう) 38歳

天才脳外科医。
父親が有名な脳神経外科医で、影響を受けている。
手術の腕は天才的だが、精神的に未熟な部分も。生意気で、自分以上の腕の医師はいないと自負しているが、野崎には一目置いている。
相対的に物事を判断する広い視野を持つ野崎にいつも助けられている。
ダークブラウンの髪色。毛先が軽く外に跳ねた髪型。



♡芝浜 楓(しばはま かえで) 38歳

皇の同期で、いつも手術でペアを組んでいる。
顎まで長さのある黒髪。ぺたりとボリュームがなく撫でつけたような髪型。表情が乏しい。冷めた表情で、後ろ向きな発言をする、根暗な男。
皇といつも比べられてきたので、「どうせ俺なんて、」が口癖になっている。
サポート役が性分に合っている。

~~~~~~~~~~~

『ライバル関係』(SIDE 雨宮 紡)

いつもニコニコしている有明総司という男が、俺は苦手だった。
彼の家は、代々医者家系だと噂で聞いた。
親が医者だからと何の疑問も持たずに医者の道に進む奴が、俺は大嫌いだった。

目的意識も持たず、無能な医師が多いから、兄さんの病気は治らない。
そんな風にどこかへ怒りの矛先を向けていないと、自分を保つことができないくらいに俺は追い詰められていた。

兄の病気は完治できる見込みはゼロだと言われ、両親は日に日に疲弊していった。
精神的な問題だけではない。長期入院が必要になると、家族は経済的にも追い詰められていく。
治療法がないと言われ絶望した両親は、ありとあらゆる民間療法に手を出し、詐欺紛いの健康食品にまで手を出していた。

何かに縋らないではいられなかったのだと思う。
自分の愛する子どもが、治療の術もなく日に日に弱っていく姿を、ただ見守るしかできない両親の苦しさ。
俺は子どもながらに感じていた。毎日苦しくて、苦しくてたまらなかった。

兄を救いたいという一心で、医者を目指した。
現実から目を背けるという意味で、勉強はとても役に立った。
特待生で医学部に入部し、トップの成績で卒業して、医者になった。
俺が医者になるまで、兄が生きていてくれたことはまさに奇跡だと思った。

脳外科に入所して天才的な腕前の医師、皇 五香すめらぎ ごこうと出会った。
彼の手術はまさに神業で、若くして色々な手法の手術を的確にこなす天才だった。
一日も早く彼に追いつきたい。そして、兄の病気の治療法を見つけ出す。
医学は日々進歩している。彼を見ていると、希望が確信に変わっていく。

兄の病気を治す。
俺はその目標に向かって進むことしか、頭になかった。
家族と最期の時間を大切に過ごそうなんて思うことは、逃げだと思っていた。
医学に対する裏切りだと思っていた。

母と父は兄の死期が近いと無能な医者に言われ、口を開くたびに最後の時間を一緒に過ごそうと俺に提案していた。

俺にはそんな気持ちは全くなかった。
諦めることはイコール逃げることだと思っていたから。



「お前、なんで医者になったんだよ。」

皇先生は手術の腕前は一流だけど、自信過剰でお世辞にも人格者とは言えない性格の持ち主だった。
脳外科医として生き残っていくには、これくらいの精神が必要なのかもしれない。
彼と話をする時、俺はいつもそう思い知らされた。

「甘ったるい感覚で医者になってんじゃねぇよ。お前みたいなノロマは眼科でも行ってろ。」

暴言は当たり前。新米医師なんて、人間として扱われない。
彼の指示の一部が聞こえなくて、聞き直した。現場では一秒が勝負だ。
俺の落ち度だから、仕方ないと思った。

「五香、言い過ぎ。ってか、眼科に失礼だろ。」

皇と同期の芝浜 楓しばはま かえではいつも彼の暴言をフォローして回る役どころだ。
この世界では手術の腕が物をいう。手術をして結果を出しているものが、一番偉いのだと思った。

「雨宮君、ごめんね。五香は手術の後、いつもこうだから気にしなくていいよ。俺が一番当たられてるし。」

控え室で彼の指示通りの資料を印刷していたら、芝浜先生がフォローに来てくれた。

「いえ、俺が悪いんで、当然です。」

「俺なんて毎日ボロクソに言われて、自尊心ボロボロだし。」

「皇先生の手術はすごい。だから、仕方ないです。」

芝浜先生の話によると、皇先生の同期が眼科にいて、仲が悪いらしかった。
天才的な医者も普通の人間と変わらないんだな、と意外に思う。

俺が有明に抱いているような感情を、彼も同期の眼科医に抱いているのかもしれないと思ったら、なんだか身近に感じてしまったのだ。

眼科医が脳外科の疾患を見つけることは多々ある。
彼がライバル視するような眼科医がどんな人間なのか、俺は気になって仕方なかった。


俺は、有明のことをライバル視しているのかもしれない。
皇先生とその眼科医の話を聞いていて、ふとそう思った。
どうにも認めたくない感情だった。

研修医の頃、音川先生に面倒を見てもらった俺と有明。
二人は性格も専攻もまるで違ったけれど、俺はいまだに彼を意識している。

有明は永遠に俺のライバルなのかもしれない。
そう思うと、うんざりした。

「なお先輩。」
彼が音川先生をそう呼ぶたびに、俺は劣等感で気が狂いそうだった。

研修医の頃から、俺は音川先生のことが好きだ。
ずっと見ていたから、彼が有明に特別な感情を抱いていることに気づいた。

有明もまた音川先生に特別な感情を抱いていて、それが恋愛感情なのかはわからないけれど、彼ら二人が並んでいるのを見ると、俺の心はどうしようもなく乱される。




「直佳さん、来ちゃいました。」

仕事が片付いたのは深夜0時を回る頃だった。
遅くなった日や、翌日の仕事が早い時、病院から近いという理由で音川先生の家に泊めてもらう。それは、ただの口実だった。

音川先生と一緒に居たい。
気持ちが膨らんで抑えられなかった。

彼と一線を超えたい、というのが本心だったけれど、
兄の病気を治すその日までは、それだけを目標に生きようと思っていた。

その目標から目をそらしてしまったら、雨宮紡として生きることが出来なくなる。

そう思うほどに、俺の心は追い詰められていた。








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