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『小児科医』(SIDE 三条 冬紀)
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♡三条 冬紀(さんじょう ふゆき) 34歳
鶴屋医師とは小学校からの同級生で、同期。
無表情で無口。淡々と喋る。
子ども相手にもにこりともしないポーカーフェイス。人間らしい表情や感情表現は誰も見たことがない。いつも冷静で、素早い診断と的確な治療で信頼されている医師。
♡鶴屋 高貴(つるや こうき) 34歳
小児科の医師。ピョンピョンと外側に跳ねたカールした毛先が特徴。少し長めのオレンジ色の髪にピアス(診療中ははずしている。)
子どもたちから大人気の明るい性格の医師。人懐っこい笑顔で、すぐに誰とでも仲良くなる。
人を褒めるのが好き。明るくて爽やかなイケメンなのでモテモテ。誰にでも優しいので勘違いされ惚れられやすい。
♡小椋 由(おぐら ゆう) 26歳
赤い髪、短髪、スポーツ万能。
単細胞で人懐っこい後輩キャラの医師。小児科専攻で、鶴屋と三条の二人に教育されながら、小児科医として日々奮闘している新米。
学生時代はバスケ部で、根性と体力だけは自信がある。体育会系でいつも元気なのが取り柄。
~~~~~~~~~~~~
『小児科医』(SIDE 三条 冬紀)
小児科の医師になったのは間違いだったかもしれないと、最近よく思う。
子どもは嫌いじゃないけれど、特別好きというわけでもない。
無表情で無口なのは今に始まったことじゃないけれど、
自分の特質についてもう少し深く考えた上で科を選ぶべきだったと思う。
子ども相手の医者として、適任だとはお世辞にも言えない。
ポーカーフェイスは誤解されやすい。特に小児科は。
人の命を救いたいという純粋な気持ちから医者を目指した。
みんな最初はそうなんだろうと思う。
それに加えて俺の場合は、幼なじみの存在が大きかった。
鶴屋 高貴。小学生の時からずっと一緒だった、同級生。
腐れ縁と言っていいくらいに、俺たちは長いことずっとつるんできた。
彼は内科医の息子で、小学校一年生で同じクラスになってから、大学までずっと一緒だった。
嘘みたいな話だけれど、小中高と一度も別のクラスになったことがない。
大学も、職場もずっと一緒だ。
「冬紀、今日も美花ちゃんに泣かれたんだって?」
デスクでCTの結果を見ていたら、すぐ後ろから声がした。
俺の肩に両手を置いて、ニヤニヤと嬉しそうに覗き込んでくる男。
外側にカールした毛先、オレンジ色の髪。
どこにいてもよく目立つ派手な髪色と、長身。
高貴と俺は身長がぴったり同じ185センチだ。
誕生日も同じ。
『前世では恋人同士か、兄弟だったのかもな。』
高貴は何気なく思わせぶりな発言をするのが得意だった。
本人は全くの無意識だから、たちが悪い。
高貴はスキンシップが激しい。誰に対してもそうだけれど、俺には特別激しい。
肩に置いていた両手を伸ばして、俺の首に抱きついた。
「どこから聞いたんだ、そんな話。」
振り返ると、心底楽しそうな彼の顔が目の前にある。
こいつの距離感は、心臓に悪い。
「由から聞いた。お前ら最近いつもつるんでるよな。」
由というのは、俺と高貴二人で面倒を見ている新米医師の小椋 由のことだ。
人懐っこくて、根性と体力で全てを乗り切ってきたような体育会系。
赤毛で、これまた目立つ風貌をしている。高貴と良い勝負だ。
怖いという印象を人に与えがちな俺相手でも、物怖じせずに笑顔で近寄ってくる付き合いやすい後輩だ。こちらが何を言っても真っ直ぐに受け取って成長しようという気合いがある。
底抜けに素直で、スポンジのようになんでもすぐに吸収する。他の科の医師から嫌味を言われた場面に遭遇したことがあるけれど、嫌味を嫌味と取れない空気の読めなさも彼の強みだ。
高貴の言うとおり、最近は由と一緒にいることが多かった。
「由がくっついてくるだけだ。」
「妬けるなぁ。俺の冬紀なのに。」
出た。高貴の思わせぶりな意味深発言。
俺の気持ちを試しているのかと思っていたけれど、そうでもないらしい。
小学生の時からの腐れ縁。
誰より長く一緒にいて、俺を一番よくわかっている相手。
俺にとって誰よりも一番理解できない相手は、高貴だった。
彼の思考や行動の傾向は読めるけれど、気持ちに関しては謎だらけだ。
中学生の時に彼を好きだと自覚してからずっと一途に想ってきたけれど、俺の気持ちに気付いているかどうかさえ分からずじまいだ。
「あれ、先輩たちここにいたんすか!」
赤毛の後輩が騒がしく入室してくる。
「由、お疲れさん。」
俺に抱きついたまま、高貴がヒラヒラと手を振った。
「抱き合ってる場合じゃないっすよ。美花ちゃんママが、三条先生に相談したいことがあるって探してました。」
「泣かせてばっかりだから、文句言われるんじゃね?」
高貴は眉間にシワを寄せて、深刻そうな顔を作る。
「そんな人じゃない。おい、離せよ、行ってくる。」
彼の手を解いて、病棟へ向かった。
♢♢♢♢♢♢
「遅かったな。」
「なんだまだ残ってたのか。」
小児科のデスクへ戻ると、高貴がPCに向けていた視線をこちらへ移す。
「お前が訴えられたら、フォローしてやらなきゃと思ってな。」
「余計なお世話。」
自分のデスクに向かうと、隣の席の彼がキャスター付きの椅子に座ったまま移動して身体を寄せる。
「大丈夫だったか?」
「大丈夫だ。」
高貴は意外と鋭い。俺はポーカーフェイスだとよく言われるが、彼には表情の違いがわかるらしかった。
「何かあっただろ。」
「別に。」
「お前の嘘はすぐわかる。」
何もないと言っても彼は納得しない。
一緒に飯を食おうと言って、俺の部屋までついてきた。
高貴はよく俺の部屋に泊まる。
学生時代からそうだ。
俺が暮らすマンションは職場から近い。
帰るのが面倒だとか、明日早いからとかどうでもいい理由をつけて、彼は俺の部屋に泊まっていく。
ベッドで論文を読んでいると、高貴が潜り込んできた。
「なぁ、何があった?」
しつこい。彼は一度気になると俺が口を開くまで折れない。
はぁ、と深くため息を吐き出す。
「言い寄られた。それだけだ。」
「やっぱりな。またかよ。」
俺が小児科の医師に向いていないと思うもう一つの理由。
なぜか患者の家族に言い寄られることが多い。
「なんでこんな無表情で無口な医者に言い寄るかな。」
「さあな。物好きな人間もいるんもんだ。」
「俺の方がよっぽど人気ありそうなのに、一回もないんだよな。そういう経験。」
「残念そうに言うな。困るだけだろ。」
「女っ気がなさそうに見えるんだろうな。冬紀は。」
「そうかもな。」
「冬紀ってモテるのに、恋人作らないのなんで?」
前から聞こうと思ってたんだけど、と彼が付け加えた。
言葉に詰まる。
俺は、高貴のことが。
言いたくても言えない感情。
「忙しいし、今は仕事しか興味ない。」
「嘘だな。」
「・・・なんだよ、」
「お前の嘘はすぐわかる。」
イライラする。
俺の嘘が見抜けるくせに、どうして好きだってことには気付かないんだ、この男は。
理不尽な感情が暴れ回っていた。
風呂上りの彼のにおい。
濡れた髪。
色っぽい、うなじ。
手を伸ばせば届く位置に、彼が居る。
それなのに。
もどかしい。
彼に触れたいという欲求は、いつも俺の思考を乱して、たまらなくイラつかせる。
「冬紀・・・?」
艶っぽい唇が、俺の名前を呼ぶ。
抱きしめて、俺のものにしてしまいたい。
何度そう願っただろう。
「おやすみ。」
何度願っても、俺は高貴に手を伸ばすことができない。
抱きしめることができない。
彼が小児科医を目指していたから、小児科医になった。
同じ職場で、同じものを見ていたかったから。
未来の高貴の隣に居たいと願ってしまったから。
それは間違いだったと、今は思う。
俺は小児科医に向いていない。
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