【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

十八話 キースの帰宅

キースは一週間の予定の調査から遅れること約二週間、出掛けてから20日後に屋敷へと戻る。

キースが馬車の客車から降りてくると、庭先までマリアとアメリア、そして、執事やメイド、総出で出迎えている。

馬車から降りてきたキースを確認したマリアは、

「お父様！予定を大きくオーバーしてますけど？遅れるなら早く連絡をくれないかしら？」

そう腰に手を当て、ふんぞり返るような格好で怒りの感情を伝えるマリア。

そんなマリアにキースは申し訳無さそうに、しゃがみこみ、マリアと目線をあわせて謝罪する。

「いやぁ、すまない。ちょっと取り込んでしまってね。あっそうだお土産が……。」

そう言って、客車に戻ろうとするキースにマリアが怒気を強めて、

「は？！お土産とかで誤魔化されないんだからね！！ちょっと取り込んだって、手紙を書く時間もなかったの？」

怒るマリアの側に急いでかけより、謝るキース。

「いや……すまない。」

そんなやり取りを黙って見ていたアメリアだったが、屋敷の皆に心配をかけていたのに、キースの態度があまりのものだったので、少し声を震わせながら、

「そうですよ……キース様！もう少しマリアさんの気持ちも考えてあげて下さい！」

そんな怒りの気持ちを込めたアメリアの声を初めて聞いたキースは

「アメリア……すまなかった。色々と立て込んでいたからと、君たちを蔑ろにする気持ちはなかったんだ……。本当にすまない。」

そう言い、頭を下げるキースにマリアは肩を震わせながら、

「本当に……本当に……心配したんだから………。」

そう言いながら、マリアはその大きな瞳に貯めた涙を溢しながら、キースに抱きつく！

そこには、いつもの気丈に振る舞うマリアではなく、五歳少女がいた。

「マリア………本当に、すまなかった……。」

キースはマリアを強く抱き締め、頭を撫でる。

「お父様……無事で良かった。私はお父様まで失ったら………。」

マリアは嗚咽混じりに話すが、その後は言葉にはならなかった……。



その後、屋敷に入り、マリアに散々小言を言われながらも、久しぶりの父娘、そして、アメリアも交えた、笑いに包まれる暖かい雰囲気の夕食後、

キースは真剣な顔つきで、アメリアに小声で、

「アメリア、私はマリアを寝かしつけて来るから、すまないがその後話をしたい。」

そう告げ、マリアを寝室へと連れて行く。




深夜になり、アメリアがキースの部屋を訪れる。

「失礼します。」

アメリアが部屋に入ると、キースからは、夕食時の朗かな表情は消え、重い空気の中、外出時の話を始めるのだった。