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バガボンド探偵・名古屋秋の陣 ④
しおりを挟む第四話
岐阜県大垣市坂下町はJR大垣駅より北東に三キロメートルあまりに位置していた。
駅からはバスが出ており、前住所は坂下バス停で下車して平野井川の土手近くに所在している。
該当番区の住居は木造瓦葺二階建てのかなり古い建物だった。
しかし敷地はずいぶんと広く、周辺は古くからの土着の住民が多い感じの農住宅区である。
おそらく昔は農業区域だったのだろうが、近年は近くに岐阜経済大学や情報科学芸術大学院大学などができたため、学生アパートも増えて、少しずつ農地が減少してきたのではないだろうか。
数軒の近隣の農家に飛び込んで聞き込みを行った。
そこで分かったことは、中田家は同地に戦前はおろか明治時代から農業を営んでいたらしい。
父・中田啓造の代になってから農業は兼業とし、同人は大垣市の水道局に勤務し、数年前に定年を迎えたとのことだった。
代々居住した土地・家屋を処分してまで信仰する「天地創神会」の近くに引っ越すとは、その信仰の度合いが深いことを物語っている。
先祖代々の土地を捨て去ることになるのだから。
また既存仏教とみられる家宗と決別して同会に改宗するにあたり、親戚や周囲の反対もあったことだろう。
それに関しては、近隣住民もそれぞれの家庭内の事情だからあまり多くを語ろうとはしなかった。
水道局に勤めながら啓造は「天地創神会」の活動に積極的であったらしく、全国で開催される同会の行事には常に役員を務めていたともいわれている。
ただ、夫婦とも人柄はきわめて温厚で面倒見がよく、自分たちが信仰する宗教を周辺住民に勧めることもなく、地域の行事などにも必ず参加して無難な付き合いがあったとのことである。
だから、中田啓造、友子夫婦のことを悪く言う近隣住民は一人もいなかったし、直接聞いた人も「あの夫婦のことを悪く言う人間は坂下町ではいませんよ」とまで語っていた。
聞き込みの際に依頼人の娘さんの相手男性の話も出たが、両親が信仰する宗教には関与していなかったようだ。
大学は名古屋だったので実家から通っていたらしいが、卒業後は愛知県庁の外郭団体に就職し、家を出て官舎に住んでいるので実家にはあまり帰っていなかったとされている。
次に岐阜地方法務局大垣支局へ向かった。
同所ではもちろん実家のもと所在地について閲覧をする。
法務局は大垣城の近くだ。
いつもなら城が好きな私としては必ず登城するのだが、今回は業者からの依頼で仕事を請けているのだからそのような息抜きは許されない。
中田家の土地・家屋を閲覧した結果、近隣での話しのとおり明治の初めに中田家の所有登記がされていた。
何代かの相続を経て、父・啓造が祖父の死亡により相続し、平成十三年八月に地元のある不動産会社に所有権が移転されていた。
もしかして「天地創神会」に移転されているかもしれないと思ったが、それは杞憂だった。
単純に不動産を引き払って同会の近くに移転したのだろうか。
この日は午前が前住所での聞き込み、午後が法務局という業務で夕方四時にはベストリサーチに戻った。
戻ってみると事務所はバタバタしていた。
太田代表は忙しく電話しており、女性社員は地図や資料を探していて、若い男性社員は外出しているようだった。
「あっ、フジイさん、ちょうどよいところに帰ってきてくれました。尾行が一件急ぎで入りましてね。いつも待機させているバイトがいるのですが、ちょっと具合が悪いらしいのですよ。
社員の青木を一人だけ現場に行かせているのですが、どうしても二人必要なのです。お願いできませんでしょうか?」
太田代表は申し訳なさそうに言った。
「分かりました。それで現場はどちらでしょうか」
「助かります、現場は守山区です。資料は今用意しますので。それと、五時からの時間外は別途加算させていただきますので、よろしくお願いします」
この太田代表はからだの大きさとは逆に繊細な心を持っているようで、あれこれ気遣いを感じる。
額に汗をかきながらからだをゆすってドタバタしている姿は、実直な性格を表していた。
資料を持って僕は現場に向かった。
久しぶりの尾行だなぁ。(^^ゞ
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