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伊予はタオルの町・今治物語 ③
しおりを挟む第三話
高松自動車道から松山自動車道はガラ空きで、百四十キロ平均のスピードでぶっ飛ばすとあっという間に伊予小松インターチェンジである。
現在では今治小松自動車道が途中まで完成しているようだが、当時は下道を走るしかなかった。
それでも午前八時三十分を少し過ぎた時刻に松山地方法務局・今治出張所に無事到着した。
法務局は裁判所や検察庁の近くに所在することが多く、ここ今治でも同様だった。
周辺には今治中央郵便局、税務署、少し離れた位置に市役所があり、いずれも駅から近い場所にある。
大通りに面したところには今治大丸デパートが、さらにビジネスホテルや国際ホテルもあって、ともかく想像したよりも賑やかな街である。
やはりしまなみ海道の完成によって、中国地方からの観光客が増えたからなのだろう。
法務局は既に開いていたが、もちろん業務開始は九時である。
閲覧申請書にスラスラスラーリと希望物件の地番を書いて印紙を貼り、所定の場所にそれを置いて座って待っていると、アレレ?「どうぞこちらへ」と若い女性職員が言った。
まだ始業前なのにこのように便宜を図ってくれるのは、地方都市の法務局ならではの嬉しいサービスである。
いやサービスというものではなく、杓子定規に物事を進める首都圏や大都市の法務局とは違って、融通が利くというか配慮があるというか、ともかく官公庁にしては温かさを感じる。
目的とする岡部家の自宅及び工場所在地の閉鎖登記簿を閲覧した。
コンピュータ化に伴い、以前の登記は閉鎖登記簿を見ないと分からない。
「登記事項証明書」を取得すると、なかには過去の登記事項にアンダーラインをつけて、現在生きている登記事項との区別を明示しているもの見られるが、代々をさかのぼっての登記は閉鎖謄本だけにしかない。
岡部家の自宅は二年前に新築したと聞いている。
該当番区の登記事項を念入りに調べてみた。
コンピュータ化はほぼ一年前からだから、新築した建物を登記していれば郵便で取り寄せた登記事項証明書に記載されているはずだ。
それが見当たらなかったということは未登記か或いは家屋番号相違である。
結果、自宅の土地は借地であることが判明。
土地の所有者の住所・氏名をメモする。
そして建物は昭和四十七年に建てられた木造瓦葺二階建の居宅で、名義は父・岡部幸三とあった。
要するに借り物の土地に自己所有の建物が存在しているということである。
このようなケースはよくあることで、借地権の問題で地主と借主とで係争されることもめずらしくない。
一般的に借地契約期間は最低三十年であるが、契約期間終了後の再契約に関してや、契約期間中の建物の再築のケースもあり、なかなかこの問題は一筋縄ではいかないものらしい。
従って、ここでこの問題について突っ込んで記述することは、物語の趣旨と大きく外れるので省く。
さて、問題は閉鎖登記簿に以前の建物の登記があり、二年前に新築した物件の登記がないということである。
要するに未登記なのだが、考えられることは新築の際、住宅ローンを利用しないで現金で建てたということである。
どのような建物か分からないが、銀行などから借り入れを行って建てたのであれば抵当権の設定があるはずである。
抵当権の設定があるということは、その新築物件を登記しなければならないということだから、その登記がないということは借り入れを行っていないということなのだ。
まあ、いずれにしてもこのあと現場を確認するのだが、次に私は工場所在地の閉鎖登記簿の閲覧に移った。
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