探偵手帳・番外編 

Pero

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伊予はタオルの町・今治物語 ①

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        第一話


 愛媛県の県庁所在地は松山市で、今治市は伊予の国といっても位置は東予、人口は約十一万というから、地方都市では比較的大きな部類である。

 伊予の城下町として栄え、古くから四国の海上交通の要衝であった。

 今治港を中心とした商業都市で、造船業が盛んであったことは理解できるが、なぜかタオルの生産と焼き鳥が日本一というのは不思議である。
 この点を探りたいが、今回の調査案件はそんなことではない。

 愛媛県にはこれまで出張で数十回は来ている。
 調査に訪れた場所は、思い起こすだけでも松山市、川之江市(今は合併して四国中央市となっている)西条市、新居浜市、東予市、大洲市、宇和島市、そして今治市とあちこち回っている。
 (殆どの市町村を訪れたと言ってもいいくらいです)

 今回の案件は結婚調査で、依頼人の娘さんと被調査人とは大阪と今治市との遠距離恋愛をしていた。
 遠距離といっても、瀬戸大橋を渡って坂出から松山自動車道を走れば普通の運転で六時間もかからない。

 私の運転で四時間半から五時間、ある調査員なら四時間までで今治に着いてしまう。
 さらにしまなみ海道が完成してからは、行きと帰りのルートを変えることで車の運転にも楽しさが加わり、長距離でもそれほど苦にならなくなってきている。

 被調査人と依頼人の娘さんとが知り合ったきっかけは調査には関係のない話だが、一応参考として書くと、信州のスキー場で娘さんがナンパされたということらしい。

 これはあくまでも依頼人が言っていることであって、事実は娘さんの方から言い寄ったという可能性もあるから、きっかけはどうでもよい。

 まあそんなわけで遠距離恋愛が始まり、既に四年になるというのだが、一向に結婚の話を持ち出さないので娘さんも焦りだした。

 娘さんは被調査人よりも三才年上で三十を超えているから、この際相手のことを調べて、万が一他に女性がいたら諦める、という内容のものだった。
 それと家族事項、資産関係の調査を加えたものがこの調査案件の内容であった。


 被調査人は岡部良一(仮名)、二十八歳。
 国立愛媛大学を卒業して家業を手伝い、現在に至っている。

 なぜ国立大学を卒業したのに就職せずに家業を手伝ったかという点が疑問だ。
 しかし世の中にはいろんな人がいるから、特に不思議に思うことではない。

 家業は金属化工業で、今治市内に工場が二ヶ所あるという。
 金属化工業といっても幅広く、一体どのような業種の下請けを行っているのかは不明である。

 家族は両親と姉が一人。
 姉は今治市内に嫁いで、平穏な家庭を築いているらしい。

 岡部家は代々今治市に住み、大昔は漁業に従事していたこともあるという。
 現在の住居と工場とは自己所有で、自宅の方は二年ほど前に新築したと聞いている。

 調査事項は被調査人の経歴、世評、女性関係を含めた素行面。
 そして家族の世評、資産関係等である。

 予備調査で現住所と前住所、それと姉の住所などが判明した。
 そして郵送で各住所地の不動産登記簿を取得したが、岡部家名義のものは見当たらなかった。

 ともかく現場に飛ぶことになり、「一泊二日で十分調査ができるだろう」という心無い上司の言葉をに苛立ちながらも、いつものハードなスケジュールでの出張となった。

 城好きの私としては今治城にも登りたいし、帰りは尾道でラーメンを食って帰りたいし、大林宣彦の世界にも触れたいのに。

 ともかく綿密な移動計画を立てて、早朝の三時過ぎに大阪を出た。
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