探偵手帳・番外編 

Pero

文字の大きさ
上 下
54 / 144

九州縦断・中国横断、1200キロの調査の旅 ③

しおりを挟む

        第三話


 午前中にとっとと散髪を済ませて被調査人の両親の人柄を凡そ掴んだ私は、そのあと車をぶっ飛ばして鹿児島市内に入った。

 鹿児島には何度も来ているから地理は大体分かる。
 スイスイと車を走らせて午前の閲覧時間ギリギリに法務局に滑り込んだ。

 地方の法務局は融通が利く。
 少々規定の閲覧時間をオーバーしても大丈夫だ。

 昼休みは局内の蛍光灯は省エネのために消されて、職員さんたちはどこかへ行ってしまうが、「閲覧が終わったらそこらへんに置いといてくれたらよかです」とか何とか言われて、ほのぼのとした気分になる。


 さて水俣だ。
 鹿児島県との境にある熊本県水俣市は、チッソによるメチル水銀など工場排水が原因の「水俣病」を思い浮かべるが、実は緑豊かな気候温暖な都市である。

 ここではどのような調査をするかというと、もちろん水俣病の調査ではない。

 今回の三件の案件のうち最も楽なもので、実は本来の調査は大阪に住む被調査人事項なのだが、もともとの出身が水俣だというので、その場所の概要と菩提寺の写真撮影等であった。

 法務局の仕事を終えて簡単に昼食を済ませたあと鹿児島市を出て、国道三号線をグングン北上した。
 だが、海岸線を走り串木野市から阿久根市、出水市を抜けてようやく水俣市に入った頃には、既に午後四時前になっていた。
 仕方なく調査は翌日にすることにした。

 そしてこの日の宿は湯の児(ゆのこ)温泉である。
 ここは不知火海に面した温泉で、旅館やホテルが十数軒あるらしいが、経費的に観光旅館やホテルには宿泊できないので国民宿舎を予約していた。

 国民宿舎といっても私が予約していた水天荘は民営であった。
 三号線から県道に入り、丘陵道路をグルリングルリンと登って行けば水天荘に着いた。

 高台から不知火海が見渡せるグッドビューの国民宿舎である。
 しかもフロントには若くて綺麗な女性がいた。
 残念ながら、のちに聞けば民営の国民宿舎の運営はかなり厳しいらしく、どうしても値段設定を低くしているので薄利を余儀なくされるという問題点があるらしい。

 この水天荘も平成十二年には廃業となってしまった。
 何しろ私が泊めてもらったこの日も、一泊二食、夕食にはビールも飲んで七千円ほどだったのだのだから。

 水天荘の写真が載っていました。 ↓

 http://www.yado.co.jp/kankou/kumamoto/kumanan/yunokoo/yunokoo.htm 

 
 さて、この時点で何キロ走っただろう?

 宮崎から宮崎自動車道、九州自動車道を経て加治木町、鹿児島市と入り、国道三号線を北上して熊本県水俣市と来た。
 既に三百キロメートル以上を走破している。

 この先、熊本を抜けて阿蘇山を仰ぎながら大分に向かうのだ。
 この調査旅行(?)の面白さや意外な展開はこれから。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero
エッセイ・ノンフィクション
タイの北側、ベトナムとカンボジアの東側、そして中国の南に位置するラオスという小国。そんな国があったのかという印象があるが、歴史は古くレッキとした仏教国で、しかも南方上座部仏教という名称である。もしかすればかなり高度な仏教なのかと思い、2001年の春に最初の旅に出てみた。 以後、訪れた回数は二十回を超え、数々の出会い、アクシデント、そしてある時は地元の子供たちに命を救われたこともあり、さらに2015年には髪と眉をある寺院の僧侶に剃ってもらい、ますますこの国の虜(とりこ)となっていくのでした。

クルマでソロキャンプ🏕

アーエル
エッセイ・ノンフィクション
日常の柵(しがらみ)から離れて過ごすキャンプ。 仲間で 家族で 恋人で そして……ひとりで 誰にも気兼ねなく それでいて「不便を感じない」キャンプを楽しむ 「普通ではない」私の ゆるりとしたリアル(離れした)キャンプ記録です。 他社でも公開☆

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

うつ病WEBライターの徒然なる日記

ラモン
エッセイ・ノンフィクション
うつ病になったWEBライターの私の、日々感じたことやその日の様子を徒然なるままに書いた日記のようなものです。 今まで短編で書いていましたが、どうせだし日記風に続けて書いてみようと思ってはじめました。 うつ病になった奴がどんなことを考えて生きているのか、興味がある方はちょっと覗いてみてください。 少しでも投稿インセンティブでお金を稼げればいいな、なんてことも考えていたり。

処理中です...