探偵手帳・番外編

超有名人の住所割り出し奮闘記 ①

　　　　　　　　第一話


　調査には様々な案件が舞い込んでくる。

　男性の依頼人からのもので、あるマンションを張り込んで、ゴミの回収日に指定された部屋から出てきた女性が捨てたゴミ袋を取って来て欲しい、などと恐ろしい依頼もあった。

　またある政党の県会議員候補者の依頼で、別の候補者の後援パーティーのチケットを買い占めて欲しい、そしてそのパーティーには出ないで欲しい、などという陰湿なものまで多種多様だ。

　大阪ではゴミ袋はまだ透明でなくても良いから何が入っているか見えない。
　見えないから余計不気味だった。

　依頼人にそのまま渡したのだが、いったいゴミ袋から何を捜してそれをどうしようとしたのだろう？
　ある程度想像はできたが、ちょっとおかしな趣味の依頼人であることに間違いはない。

　県議候補の依頼は、対抗候補者の後援パーティーで恥をかかせてやろうという目的だったのだろう。
　一枚五千円ほどのチケットを三百枚以上買い集めたと記憶している。

　そして当日調査員一人を連れて私がその会場に行った。
　立食式パーティーだったが、主催者側が来ると思い込んでいた三百人が来ていないとやはり会場は寂しく、人数分が用意された料理もたくさん余ってしまった。
　ひどいものである。

　このような依頼でも売り上げのためなら受ける。
　公序良俗に反する調査は受けないとしているが、例を挙げたこの二件の依頼内容もちょっと相当猛烈に首を傾げるものであった。

　マスコミや胡散臭い探偵調査業者が煽る「別れさせ屋」「復讐屋」の類の調査依頼は、実際は殆どというか全く入ってきたことがなかったが（相談員が断っていた）、上記のようなおかしな調査依頼や、調査とはかけ離れた「便利屋」的依頼が結構入っていたのは事実である。


　さて、これから紹介する案件もちょっとおかしなものだった。
　ある芸能人の住所を割り出してほしいというのだ。
　芸能人の住所はシークレットが基本である。

　庶民的な芸能人なら、たまたま近所に芸能人を見かければ住所は自然と判明し、そこから口コミによって広がることもあると聞く。
　しかし一般的に芸能人だけに限らず、有名人の住所はなかなか分からないものなのである。

　住所割り出しの依頼があった芸能人は超有名人で、同人は日本の映画界を代表する俳優であった。
　そのプライベートな部分はベールに包まれており、スキャンダルとは全く無縁のクリーンなイメージの俳優とされていた。

　所属のプロダクションに問い合わせても当然答えてくれるわけがない。
　ファンレターはそのプロダクション気付で送付するのである。

　「噂」を頼りに一応やってみるか、ということで受件した。
　依頼人はその俳優と昔恋愛関係にあった女性だと調査指示書には書かれていたが、おそらくそれは妄想であろう。

　盗聴器発見依頼の殆どが思い込みや妄想であるのと同じように、このような依頼人は精神的に問題を抱えていることが多い。
　ただ、こちら側とすれば見分けがはっきりつかないのだ。

　調査で度々あるのが、自分自身が職場や近隣で噂されているから、その内容を調べて欲しいというものである。
　被害妄想というわけだが、この種の依頼は百パーセントに近く妄想である。


　さて、超有名俳優の住所割り出しだが、先ず各方面で調べてみたところ、同人は普段都内のマンションを寝泊り先としていることが分かった。
　しかしそのマンションは特定できず、またそこが実際の住所ではないので、依頼人が求めているものとは異なる。

　寝泊りしているマンションを特定できれば、張り込みによって同人を確認し、尾行するという方法もあるが、たとえ確認したとしても本宅へ戻るとは限らないし、それよりも効率が非常に悪く莫大な経費がかかる。

　やはり「噂」を頼るしかないのか？