探偵手帳・番外編 

Pero

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清田調査員を偲んで ⑤

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        第五話


 木屋町から四条通に出るとタクシーはいくらでも客待ちをしている。
 まもなく本人はタクシーに乗り込んで走行した。
 遅れずに後ろのタクシーに乗り込み、前の車を追ってくれと運転手に伝える。

 「ダンナ、事件ですか?」と興味深く聞かれることもあるが、このタクシーの運転手は黙って前のタクシーを見失わないよう、追うことに集中してくれた。

 「悪いけど、あまり近づかないように頼みます」と遠慮なく言う。
 黙ってうなづく運転手。

 本人を乗せたタクシーは京都市内をドンドン北上する。
 本人の自宅は北区の上賀茂神社近く、途中、鴨川の土手沿いを走る。
 二十歳の頃、京都で厳寒の中、貧しい苦学生暮らしを送っていたことが記憶から少しよみがえる。

 だが、そんな感傷にふけっている場合ではない。
 五十メートルほど前を走る車の赤いテールランプを見逃さないように追ってもらう。

 タクシーはさらに走り、上賀茂神社横を素通りし、「柊の別れ」あたりで止まった。
 少し手前でこちらのタクシーも止めてもらう。
 料金を急いで支払う。釣り銭など受け取っている場合ではない。

 前のタクシーから人影が降りて道路を横切り、路地へ入るのを確認した。
 すかさず猛ダッシュする。
 自宅に帰るのは間違いないが、帰宅時刻を取らなければならない。
 その方が調査報告書の信用度が増すのだ。

 路地を確認すると、二十メートルほど前を本人がややフラつきながら歩き、やがて格子戸を開けて自宅へ倒れこむように入って行くのを確認、時刻は午前一時十五分。

 なんてことはない、本人はバーで飲んだあと、行きつけにしていると思われる「星亭」をハシゴしただけであった。
 この日は女性との特別な接触はなく、単に客として店を訪れただけに終わった。


 尾行調査はこのように依頼人の思い過ごしということも多々あり、例えば一週間や十日間の尾行を実施しても、本人が全く相手と接触すらしないまま調査日程が終わってしまうこともある。

 つまり、帰宅が遅い、イコール女の存在といった構図は、一概には言えないのだ。
 調査期間中全くそのような素振りがなかった場合、それは本人に特別な女性の存在がなかったという一つの結果でもある。

 女性の勘は鋭く、女がいると感じたことがかなりの確立で当たっているといわれるが、長年の夫婦関係と年齢の積み重ねから、中年以降の女性はやや感度の鈍さがあるようだ。

 男女関係は、相手のことを思う気持ちが強い時期ほど、相手の不審な行動が四六時中気になるものだ。
 付き合い始めは浮かれてしまって盲信することもあるかも知れないが、若い人ほど相手のことに敏感である。


 さて、本件は一回目の調査では特に接触はなかったが、数日後、二度目の調査実行が指示された。
 当然、本人を実際に見ている私と清田調査員が再度担当することになった。
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